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余録

ある時、天から舞い降りたベールが…

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 ある時、天から舞い降りたベールがあなたの頭を包んでしまう。するとあなたは自分が何者であるかが分からなくなった。自分の性別、人種や能力、職業や学歴、金持ちか貧乏かも、まるで無知な立場となる▲さて、その時あなたはどんな原理をもつ社会に住むのを選ぶか。性別も、人種も、資産も、障害の有無も分からないのだから、自分が実際どうであれ、それらによって差別や自由の制限を受けることのない社会を選ぶのが当然だろう▲このベール、「無知のベール」と呼ばれ、公正な社会を考えるために米哲学者ロールズが思考実験に用いた。そこでは社会の生産効率のために個の自由が奪われ、自分がそうかもしれない少数者が排除される社会は絶対に選ばれない▲重度障害者ら45人が殺傷された津久井やまゆり園事件の植松聖(うえまつ・さとし)被告の死刑が確定した。1審死刑判決を不服とする弁護人が出していた控訴を、自身で取り下げたのである。当人は「延ばしたところで意味がない」と小紙に語っていた▲「障害者は不幸をうむ」「時間と金を奪う障害者に人権はない」。そう強弁した凶行への法の裁きは下りたが、そのおぞましい幸福論や効率論への悔悟(かいご)や反省は最後まで聞かれなかった。事件の痛みは心に突き刺さったまま癒えない▲公正な社会を考えるのに「無知のベール」が要るのは、それが自分と他者を入れ替えて考えさせるからである。今は死刑囚となったその人に、他人の立場になって考えるベールはついに降りてこなかったのか。

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