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東京へ ともに歩む

毎日新聞

瀬立モニカ選手からカヌーのこぎ方が「上手」と褒めてもらったとうれしそうに話す中条あやみさん=東京都渋谷区で2020年3月19日、滝川大貴撮影

東京・わたし

パラカヌー題材の映画で主演 女優・中条あやみさんが感じた競技の魅力とバリアフリーの課題

 東京パラリンピック競技のカヌー(スプリント)を題材にした映画「水上のフライト」(兼重淳監督)が6月に全国で公開される。交通事故で下半身に障害が残った主人公の女子大生「藤堂遥」が、パラリンピック出場の夢を見つけ未来を切り開く物語だ。主演を務める女優の中条あやみさん(23)に、パラカヌーや映画の魅力を聞いた。【聞き手・柳沢亮】

パラカヌーでパラリンピックを目指す主人公の藤堂遥=Ⓒ2020 映画「水上のフライト」製作委員会

 ――遥は、陸上の走り高跳びでオリンピックを目指す将来有望な女子大生でした。

 ◆負けを知らない強気なキャラクターです。自分に厳しく、やりたいことを突き詰めているからこそ自信に満ちあふれています。私自身は「石橋をたたいて渡る」ような心配性。主人公のように、自分に誇りを持って堂々としているのはすごいなと感じました。

 ――その遥は事故で下半身に障害が残ります。障害者の大変な作業について細部を丁寧に演技していらっしゃいましたね。演技するのは難しかったですか。何か気づいたことはありますか。

 ◆車いすの操縦やベッドから車いすへの移乗などの動きは、(車いすバスケットボール選手で、小学生などに向けた体験会を開く)本多正敏さんに教えていただきました。(動画サイトの)ユーチューブで車いすの方の映像を見て勉強もしました。私たちが普段歩いていることや段差を越えることは「当たり前」に思えますが、この映画に出たことで、それは当たり前ではないのだと実感しました。映画の中で、図書館の本棚の高い位置にある本を取ってもらう場面があります。象徴的です。

 街中で車いすに乗る場面を撮影したときには、自転車が怖いなと思いました。子どもと同じくらい低い目線では、目の前を車輪が通り過ぎるのです。普段の生活でも、駅のエレベーターで車いすの方が待たされているところを目にします。障害者が過ごしやすい社会にはまだなっていないと感じます。

事故で歩けなくなり、車いす生活となった主人公の藤堂遥(手前)=Ⓒ2020 映画「水上のフライト」製作委員会

 ――印象深いシーンはありますか。

 ◆一つに絞れませんが、家族や友達、子どもたちと触れ合う場面は主人公の人間性が表れていると思います。最後(のレースで)負けたあと、(事故からレースに出場するまで傍らで支えた)お母さんの顔を見た瞬間は熱いものがあり、すごく好きな場面です。

 ――映画を撮影する前、パラカヌーのことはご存じでしたか?

 ◆見たことがありませんでした。競技用ボートを見て、細くてバランスが取りづらそう……が第一印象です。乗るのがとても難しく、私にはこぎ進められないのではないかと思うほどでした。撮影(2019年8月14日~9月24日)の1カ月前から東京女子体育大学内のプールに週1回通いました。リオデジャネイロ大会のパラカヌー日本代表コーチで、瀬立(せりゅう)モニカ選手(22)を8位入賞に導いた西明美さん(51)に教えてもらい、約2時間のペースで練習しました。

 ――相当難しかったようですね。

 ◆波や風の影響を受けやすく、少しの風ですぐにカヤックが流されます。まっすぐ進むためには、いかに上半身の筋肉をつけられるかが重要です。腕ばかりではなく、背中周りの筋肉がなければ強い力が出ません。撮影前に個人ジムに通っていましたが、なかなか筋肉がつかず、体作りをするのは難しいと実感しました。

事故で歩けなくなった主人公の藤堂遥(中央)は一時心を閉ざすが、家族やコーチらに支えられ、自らの未来を切り開いていく=Ⓒ2020 映画「水上のフライト」製作委員会

 ――中学校ではバドミントン部だったそうですね。それを、カヌーに生かせたと思ったことはありますか。フォームも奇麗で、カヌーを楽しんでいるように見えました。

 ◆ラケットを持つ右腕の力が強いせいか、カヤックが同じ方向に曲がってしまう癖がありました。撮影中は2回ほど「沈(ちん)」(カヌーが転覆すること)して、乾かして撮り直しをしなければいけませんでした。「(みなさん)ごめんなさい」と思いながらも、「今日は風が強かったから」と自分に言い訳をしていました(笑い)。本当に難しい競技ですが、体が自由になる気分を味わえます。最初は「上手にならなきゃ」と気負っていましたが、日が当たる中、風を感じながら自分の力で前に進んでいくと気持ちいい。SUP(ウオータースポーツの一種)を楽しむ方などさまざまな人たちと出会うのも楽しかったです。だれでも同じように楽しめるところが魅力です。

 ――映画では、装具を人の体にいかに適合させるかが大切だというパラスポーツの魅力も語られていました。中条さんにとってのパラスポーツの魅力を教えてください。

 ◆選手は障害によって自らの体を道具に合わせます。カヌーでは足の位置やシートの位置などミリ単位の調整が必要です。(技術者やコーチと)一緒に勝利を目指していく素晴らしさがあると思います。

 ――東京パラリンピックに向けて、ご自身はどのように関わっていきたいとお考えでしょうか。

 ◆映画を通じてパラカヌーを知り、好きになってほしい。そこから別の競技に興味を持ってもらえたらいいなと思います。パラリンピックには一つ一つ、胸が熱くなるドラマがあります。また障害のクラス分けによってルールが違うことも面白さの一つです。一番はカヌーを応援しますが、私自身バドミントンをやっていたので気になっていますし、これからも応援し続けたいと思います。

 *新型コロナウイルスの影響で映画の公開は11月13日に延期されました。

映画「水上のフライト」で主演を務めた女優の中条あやみさん=東京都渋谷区で2020年3月19日、滝川大貴撮影

なかじょう・あやみ

 1997年2月生まれ、大阪市出身。映画「セトウツミ」(2016年)で毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞、映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」(17年)で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。ファッション誌「CanCam」の専属モデルを務めるほか、映画やテレビなどに多数出演している。

あらすじ

 藤堂遥は陸上の走り高跳びで実力に絶対の自信を持つ体育大学の学生だった。世界を目指す有望な選手だったが、ある日、交通事故に遭い、歩くことができなくなってしまう。将来の目標を失い、ライバルの後輩選手の活躍を横目に心を閉ざして自暴自棄になる。しかし、パラカヌーという新たな夢を見つけ、コーチや家族など周囲の人々に支えられながらパラリンピック出場を目指す。絶望から希望へ、ひとりの女性の再生の物語。

柳沢亮

毎日新聞オリンピック・パラリンピック室員。1990年埼玉県生まれ。2013年入社後、新潟支局、東京経済部を経て19年5月から現職。高校時代は野球部に所属し、本塁打数は通算1本(非公式)。草野球の試合にいつ呼ばれてもいいように定期的にグラブを磨いているが、いまだ出番はない。最近の楽しみは、相思相愛の長男と近所の児童館で遊ぶこと。

柳沢亮

毎日新聞社オリンピック・パラリンピック室員。1990年、埼玉県熊谷市生まれ。2013年入社後、新潟支局、東京経済部を経て19年5月から現職。高校時代は野球部に所属。最近、久々に草野球界に復帰した。休日の楽しみは、相思相愛の息子と児童館で遊ぶこと。