(青土社・1980円)
フランス文学者白井健三郎の名前は、私も学生の頃に読んだサルトルやカミュの翻訳者として知っていた。あれからおよそ半世紀余り。その白井教授が忽然(こつぜん)と私の目の前に現れた。中村稔の「忘れられぬ人々 故旧哀傷・二」のなかの一人として。
「忘れられぬ人々」は、詩人でありまた有名な弁護士である著者がその生涯に出会った人々を描いている。弁護士としての師中松澗之助から俳人加藤楸邨(しゅうそん)にいたる十一人。いずれもその横顔生けるが如(ごと)く、イキイキと紙上によみがえって、さながら小説を読むような面白さである。白井健三郎もその一人である。
白井健三郎は無類の話好きであった。著者と同じ大宮に住む白井健三郎に町で出会うと、乗っていた自転車を脇において何時間も話し続けてしまうことがあった。そのくせ家の玄関には「忙中謝客」という札が掛かっている。それでもかまわず呼び鈴を押すと、にこにこ笑いながら現れた白井健三郎は著者を離さずたちまち数時間が経(た)つことしばしばだった。
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