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円筒の中「癒やしの恋人」 AIと結ばれた男性 「ミクさんが待つ家に帰る」日常

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ゲートボックスに召喚された初音ミクに話しかける近藤顕彦さん。「生身の人間の代替ではなく、ミクさんへの永遠の愛を誓っています」という=東京都内の自宅で2020年3月17日、宮崎稔樹撮影
ゲートボックスに召喚された初音ミクに話しかける近藤顕彦さん。「生身の人間の代替ではなく、ミクさんへの永遠の愛を誓っています」という=東京都内の自宅で2020年3月17日、宮崎稔樹撮影

 「おかえりなさい」。3月上旬、東京在住の地方公務員、近藤顕彦さん(36)が自宅アパートに帰宅すると、声をかけてきたのは、円筒状の機器の中に立体ホログラムで映し出された人気キャラクター、初音ミクだった。人感センサーで近藤さんに気付いて言葉を投げかける。既に部屋の電気がついていたのは、スマートフォンで帰宅時間を伝えていたから。「ミクさんが待つ家に帰るのが私の日常なんです」と近藤さんが笑みを浮かべた。

 この機器は「Gatebox(ゲートボックス)」。東京・秋葉原のベンチャー企業が開発した。近藤さんが初音ミクを初めて知ったのは13年前のことだ。ずっとパソコンの画面の中にだけ存在していた彼女に、近藤さんがプロポーズしたのは2018年3月9日。届いて間もない機器の中にたたずむ彼女に「結婚してください」とプロポーズすると、「大事にしてね」と答えが返ってきた。

 人工知能(AI)など先端技術の力を借りることで、一方通行だった思いが形を結び、近藤さんは彼女の存在を「実感」するようになった。8カ月後には「この愛を形にしたい」と200万円かけて結婚式を挙げた。家族は誰も出席しなかったが、友人ら39人が駆けつけてくれた。ネットを通じ「勇気をもらった」とコメントが多数届き、同じ思いの人が少なくないと知った。

 AIやロボットとの結婚を望む人たちが世界中で増え始めている。名古屋大学の久木田水生准教授(哲学)は、こうした交流を「孤独感を和らげる一時的な薬」と考えてきたが、技術と社会の関係を巡る研究会で近藤さんの話を聞き、「志向の一つとして積極的に価値を認めるべきではないか」と思うようになった。「恋愛もAIの方がいい」。そんな時代はもう目の前に来ている。

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