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「寄席の灯」が消えた いつか笑ってネタにできる日のために

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新型コロナウイルスの感染拡大を受けて政府の緊急事態宣言が発令され、休席した末広亭=東京都新宿区で2020年4月7日午後6時10分ごろ、濱田元子撮影
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて政府の緊急事態宣言が発令され、休席した末広亭=東京都新宿区で2020年4月7日午後6時10分ごろ、濱田元子撮影

 寄席の灯は消さない。太平洋戦争の真っ最中でも、江戸っ子は寄席に通い続けた。そんな意気も、新型コロナウイルスの前には白旗を揚げざるを得なかった。東京都内の各寄席は政府の緊急事態宣言を受けて、当面の間の休席を決めた。長い寄席の歴史でも異例の事態だ。

 緊急事態宣言が発令された7日夕、新宿末広亭の前はひっそりと静まり返っていた。本来なら、落語協会(柳亭市馬会長)の真打ち昇進披露興行中で、のぼりがはためいてにぎわっているはずだ。

 木戸から明かりが漏れていると思ったら、この日トリを務めるはずだった新真打ちの柳亭市楽改め玉屋柳勢がいた。「休みを知らずにお客さんが来られたらと思って」。心遣いが身にしみる。

 今春は柳勢ら5人が真打ちに昇進。3月21日から上野の鈴本演芸場で披露目が始まった。しかし都の週末の外出自粛要請を受け同28、29日の公演を中止。4月1日から始まった末広亭での披露目も4日以降中止になった。

 「しょうがないですよね。間が悪かったです」と無念がにじむ。とはいえ気持ちは切り替えている。「これが目標ではなかった。むしろ真打ちになってからの方が長い噺家(はなしか)人生ですから。これからいい噺家になるのが目標。自分の力でトリを取らせてもらうようにならなければ」

 寄席だけでなく、落語会も軒並み中止になっている。「今月はフリーターです(笑い)」

 落語芸術協会(春風亭昇太会長)も5月1日から末広亭を皮切りにスタートする予定だった真打ち昇進披露興行の秋以降への延期を発表した。昇進の日付は変わらないが、披露興行は「できる限り万全の体制を整えて」という思いからだ。4月12日に予定されていた披露パーティーは中止された。芸協では2月11日に昇進した松之丞改め六代目神田伯山も、国立演芸場での披露興行がすべて中止となった。

戦争中も休まなかった寄席

 東日本大震災の時は、末広亭は当日の夜席こそ閉めたものの、翌日からは開けていた。浅草演芸ホールも数日後には再開した。さすがにお客さんは少なかったというが、「こんな時こそ笑いが必要だ」という思いは誰しも同じだったのだろう。しかし、そうも言っていられないのが目に見えないウイルスの怖さだ。

 戦争中はどうだったのか。「寄席は休んでないですよ」と言うのは太平洋戦争開戦直前、1941(昭和16)年7月に入門した三遊亭金馬だ。「お客さんは来てくれました。空襲警報…

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