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ブラック・チェンバー・ミュージック

/250 阿部和重 写真・相川博昭

 横口健二は相棒に心配かけまいと、声には出さずに「大丈夫、すぐ帰るから」と口だけ動かした。が、そのときすでにソアラは走りだしてしまっていたから、おそらく彼女にはひとことも伝わってはいない。

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 白馬荘を発(た)ってどれくらいの距離を走ったのかはさだかでない。方角も時間もなにもわからずぼんやりする最中(さなか)、とつぜんに横っ腹を蹴られてショックと痛みをおぼえる。初代ソアラの助手席におさまるうち、いつしか寝てしまっていた横口健二は、目的地への到着にともない手荒にたたき起こされたのだ。

 拉致の途中にもかかわらず居ねむりしてしまったことはかならずしも神経のずぶとさを意味しない。スキンヘッドマンにまた拳銃で脅され、結束バンドを渡されて自分自身を拘束せよと指示されたのは出発まもない信号まちのときだったが、それがパジャマを着るのとおなじ効果を果たした。手指や口を使うなどしてみずから両手を縛り、両目をアイマスクで覆った横口健二は、適度な振動のなかで視覚情報と手の自由を制限された者のつねと…

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