新型コロナウイルス感染症をめぐり、緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大された。特別措置法に基づき、対象を7都府県から一気に広げた。
都市部から移動した人によるクラスター(感染者集団)が発生している地方がある。全国に対象を広げたのは、5月の大型連休を見据えて人の移動を最小限に抑えて感染拡大を防ぐためだ。
医療体制が手薄な地方で、患者の急増による医療崩壊を避けられるよう備えておくとの狙いもあるようだ。
こうした理由はある程度理解できる。しかし、唐突感は否めない。政府は当初、休業要請に消極的姿勢を示していた経緯がある。最初の宣言発令から約1週間で、効果はまだ見極められていない。知事の中には戸惑う声もある。
7都府県を指定した時の基準は、感染者数が倍加するまでの期間や感染経路を追えない人の増加などだった。全国に広げた根拠はこれとは異なる。
納得感が不足したまま、警戒ばかり強めても限界がある。首相は国民や地方自治体、事業者の協力を得られるよう十分な説明を尽くすべきだ。
宣言を受けて、各知事は法に基づいた外出自粛要請や休業要請・指示ができるようになる。私権の制限も可能になる。
感染者数がゼロや1桁にとどまっている県もある。感染状況には全国で違いがある。どこまで踏み込むかは、自治体によって異なってくるだろう。
人と人との接触を地域で8割削減することや学校の休校は社会への影響が大きい。感染の拡大状況の評価と併せて、慎重に判断すべきだ。
一方で、感染者数が増加している地域では、休業要請をするかどうかが大きな検討課題だ。
政府はこれまで経済的な影響を懸念して慎重な姿勢を示し、東京都との間で混乱が起きた。繰り返してはならない。
東京都などは休業要請とセットで独自の協力金を事業主に支給する。しかし、同様の対応は財政状況が脆弱(ぜいじゃく)な地方ではままならない。全国に対象を拡大した今こそ、政府は財政的な手当てを検討すべきだ。