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ヤングケアラー

通学や仕事をしながら家族の介護をする子ども「ヤングケアラー」。将来が左右される深刻なケースも。

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ヤングケアラー~幼き介護

大人になって気づいた「これって介護なんだ」 22歳女性が実名で体験を発信する理由

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自身の体験を発信している高橋唯。「ヤングケアラーの理解に少しは貢献できるのかな、と思って。自分と同じ立場の人と会える喜びが大きい」=2020年3月13日、丸山博撮影
自身の体験を発信している高橋唯。「ヤングケアラーの理解に少しは貢献できるのかな、と思って。自分と同じ立場の人と会える喜びが大きい」=2020年3月13日、丸山博撮影

 思春期のヤングケアラーは孤立して悩み、自分がやってきた介護の意味を理解して言語化できたのは大人になってから、という人が多いのも特徴です。高橋唯さん(22)は、大学時代からSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やメディアを通じて、高次脳機能障害の母を見守る実体験を積極的に発信し始めました。(本文は敬称略)【ヤングケアラー取材班】

 「今日は何日?」

 「えっと、3月の、18日かな」

 「すごいじゃん、正解」

 動画投稿サイト「ユーチューブ」に4月5日にアップされた動画の一場面。関東地方に住む高橋唯(22)が母純子(51)にクイズを出題する、一見たわいもないやりとりだ。唯が開設したチャンネルは「元ヤングケアラーたろべえとおかあちゃんねる」。純子は、記憶力や思考力が低下する高次脳機能障害を抱えている。障害の特性を紹介しつつ、唯自身の体験も発信する試みだ。「春休みの記念という程度ですけど」

 唯はSNSも積極的に使う。ハンドルネームの「たろべえ」は昔飼っていた犬の名から取った。純子との日常をつぶやくツイッターでは、新年度の目標として「新社会人とお母さんのケアの両立」を宣言した。

 偏見や家族の気持ちを心配し、取材に対して匿名を希望する元ヤングケアラーが多い中、唯は素顔や実名をさらして自らの体験を発信する。「ヤングケアラーの存在が知れ渡って、昔の私と同じように悩む子どもに支援の輪が広がれば、私の経験も無駄じゃなかったと思えるから」

 しかし唯が、やすやすとその心境に至ることができたわけではなかった。

    ◆  ◆

 純子は10代で交通事故に遭い、高次脳機能障害になった。父の等(57)も唯が生まれる前年、事故で左腕を失った。一人娘の唯は、3歳の頃にはすでに近所のスーパーへおつかいに行った覚えがある。

 記憶力に難がある純子は絵本の読み聞かせがうまくできず、唯は一人で本を読んでいた。純子は料理の出来にもむらがあり、生焼け肉を出されて懲りた唯は小学生で料理も身につけた。「お母さんができること、全部できるようになっちゃった」。冷蔵庫を点検して純子が買った古い食材を捨て、食器の洗い残しを洗い直す。今も続く習慣だ。

 唯の中学時代、純子は夕方から台所で酒を飲み、唯の下校時間にはすっかりできあがっていた。自室で宿題を始めると「ドカン」。千鳥足の純子が転ぶ音がする。音が大きいと心配で助けに行った。「他の子は宿題をしたり、部活で練習をしたり。なのに私はなぜお母さんのために時間を使っているの?」

 ただ、その頃の唯は今と違って、周囲から「もたもたして、何が言いたいか分からない」と言われる子どもだった。ふさぎ込む唯を、教師は「あなたに何を言っても人ごとみたいだ」と突き放した。

 唯が高校生になると、純子は投薬治療を始め、2年をかけてアルコール依存症を克服した。それでも、唯は年相応に遊んだ思い出が少ない。「同級生と同じステップを踏めなかった」。思春期の悔いだ。

    ◆  ◆

 唯が自分を「ヤングケアラーと呼んでもいいかな」と思うようになったのは、実は最近だ。

 医…

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【ヤングケアラー】

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