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社会が求めるゼロリスクが招く医療崩壊と自己責任論 医療人類学者が読む窮屈な社会

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医療人類学者の磯野真穂さん=東京都内で、鈴木英生撮影
医療人類学者の磯野真穂さん=東京都内で、鈴木英生撮影

 今月7日の緊急事態宣言発令以降、飲食店の営業自粛や在宅勤務の増加などで、社会の姿は一変した。世間を覆う「自粛」のムードに、生きづらさを感じる人も少なくない。ダイエットブームと、社会の関係に鋭く迫った「ダイエット幻想―やせること、愛されること」(筑摩書房)で話題を呼ぶなど注目の医療人類学者、磯野真穂さんに、今の社会はどう映っているのだろうか。【鈴木英生】

「『早く宣言を!』の声があふれた状況は新型コロナ自体よりも怖い」

 --全国に緊急事態宣言が出ました。これまでの過程をどうご覧になってきましたか?

 世論は、元々、緊急事態宣言に慎重だったかに見えましたが、いつの間にか、安倍晋三政権に批判的な人たちまでもが、まるで「早く宣言を出せ」となりましたよね。「自分たちの私権を制限しろ」と言わんばかりの勢いに感じました。政府に「こう補償するので、自粛してください」と言われて同意するのであれば、まだわかります。宣言後の生活がどうなるかわからず、補償の詳細が不明確なまま、「早く宣言を!」という声があふれた状況は、長期的影響を考えると新型コロナ自体よりも怖い。

 そのうえで、現時点までの日本の対策は、成功してきたように感じます。1億を超す人口で2月からはやっているのに、死者数は約280人(21日現在)。特に、3密は日本で得られたデータを根拠にした、よく練られた考え方だと思います。日本の大都市圏で、社会活動を止めずに人同士が2メートル以上の距離を常に保つことは、不可能です。そこまでは盛り込まず、日本の制度及び社会の特徴と限界を考えたうえで、感染拡大の防止と社会の維持とを両立するギリギリの提言だったのではないでしょうか。

 --3密は、「定義が漠然としている。もっと具体的に」と言われますが。

 むしろ、「これくらいならば大丈夫だよね」「ここはまずい」と、私たちがリスクとの兼ね合いを自ら考える余地のあるところに価値がある、と、私は思いますが。現状は、逆ですね。けれど、リスクはグラデーションなので、例えば「○人までならば同じ場所にいても絶対に感染しない」はありません。万が一を気にしすぎたら、家から一歩も出られない。先日、新型コロナの患者もいる病院の看護師に話を聞きました。普段から、病状の落ち着いた患者の転院対応をしている人です。先日、元新型コロナ陽性患者がPCR検査(遺伝子検査)を3回してすべて陰性だった。ところが、転院先がなかなか決まらない。ある病院には「10回くらい陰性なら引き受けを考える」と言われたそうです。

「社会には、ある程度のリスクを許容する胆力が必要」

 --あまりにも不条理に感じますが……。

 「一人の感染者も出してはいけない」という倫理がこれだけ強くなると、あながち誤った判断とも言えません。何回検査をしても「万が一」を完全には排せませんから。医療機関にとって、新型コロナ患者の受け入れは、医学的にだけでなく倫理的にも、リスクになっている。仮に人工呼吸器の数が足りていたとしても、社会が求めるゼロリ…

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