新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、これまでの行動パターンを変える「行動変容」という言葉が注目されている。7日に7都府県に発令した緊急事態宣言以降、政府は「人との接触を最低でも7割、極力8割減らす」との目標を掲げるが、首都圏や関西など目安となる地域の人出は4~7割減(22日時点)にとどまる。行動変容はなぜ難しいのか。促すにはどうすればいいのか。政府の専門家会議のメンバーで、災害時の避難行動などを研究する大竹文雄・大阪大大学院教授(行動経済学)に聞いた。【牧野宏美/統合デジタル取材センター】
――外出自粛と言われていますが、直近のNTTドコモのデータによると、特定警戒都道府県では感染拡大前と比べた人出の減少率は8割に達していません。また、土日には地元のスーパーや公園に人が集まっているケースもあるようです。行動変容が難しいのはなぜでしょうか。
◆行動経済学では、人の意思決定には合理的なものから系統的にずれるバイアス(先入観)が存在すると考えられています。新型コロナの影響に伴う行動変容を妨げているものとして、一つは「現状維持バイアス」が挙げられます。これは現状を変更する方がより望ましい場合でも、今までの生活や習慣を失うことを損失と考えてしまって、現状維持を好む傾向を指します。これまでの働き方や、夜の街で飲み歩くなどの習慣を変えるのは誰にとっても簡単ではありません。
もう一つは、「現在バイアス」です。計画はできても、それを実行する時になると現在の楽しみを優先し、計画を先延ばしにしてしまう特性です。緊急事態宣言が出て人との接触を減らそうと努力しても、その成果が出るのは2週間後で、日々発表される感染者数がすぐ減るわけではありません。ところが、私たちは頑張ったんだから、今すぐに報酬がほしい。将来の成果はとても小さな価値のように感じられます。成果がすぐには目に見えない状態が続くと、だんだん耐えられなくなります。
――ある著名人が感染を発表した時、「まさか自分が」とコメントしていました。「自分だけは大丈夫」と思いがちなのもバイアスですか。
◆はい、「正常性バイアス」「確証バイアス」などと言います。災害時の心理状態の説明でよく使われますが、自分に危機が迫っていることを過小評価し、都合のいい情報だけを選んで信じる傾向です。これは人間がパニックに陥らないために備えた特性で、いい面もありますが、その分危機回避のための適切な行動がとれない恐れがあります。
例えば新型コロナに関して流れている多くのニュースの中で、「(密閉・密集・密接の)『3密』と言われている夜の街に行ってもパチンコに行っても平気だった」とコメントしている人が登場すると、同じように感じている人は、自分の信念を裏付けるものだと信じ、都合の悪い情報は無視してしまいます。
政府の専門家会議の3月19日の提言では、国内の感染状況について「引き続き持ちこたえている」とした上で、「一部地域では感染拡大が見られ、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねない」と指摘しました。どちらも事実ですが、安心したい人は最初の情報だけしか見ません。それで20日からの3連休、警戒心が緩んだところはあるでしょうね。メッセージを発信する側は受け手の確証バイアスを前提として注意深くメッセージを出す必要があります。
――こうしたバイアスを乗り越え、行動変容するにはどうすればいいのでしょうか。
◆まず現状維持バイアスを克服するためには、比較対象を現状ではなく最悪の状況にした上で習慣を変えるというスタンスが必要です。短期的な問題なら一時的に我慢すればいいのですが、新型コロナは長期戦になることが分…
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2001年入社。広島支局、大阪社会部、東京社会部などを経て19年5月から統合デジタル取材センター。広島では平和報道、社会部では経済事件や裁判などを担当した。障害者や貧困の問題にも関心がある。温泉とミニシアター系の映画が好き。
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