寄稿

カミュ『ペスト』が教えるもの 不条理と闘うためのモラル=中条省平(学習院大教授・フランス文学)

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緊急事態宣言発令後の最初の週末、人通りが激減した原宿の竹下通り=東京都渋谷区で2020年4月11日午後、幾島健太郎撮影
緊急事態宣言発令後の最初の週末、人通りが激減した原宿の竹下通り=東京都渋谷区で2020年4月11日午後、幾島健太郎撮影

 アルベール・カミュの『ペスト』は1947年、第二次世界大戦が終わってまもなく出版されました。したがって、当時、この小説のペストにナチス・ドイツの隠喩を見て、そこにファシズムと戦ったカミュのレジスタンス(対独抵抗運動)の経験が投影されていると考えることはごく自然でした。

 しかし、『ペスト』はそのような比喩的な意味にとどまる小説ではありません。実際、いまこの小説を読み直してみると、金儲(かねもう)けのことしか考えない経済至上主義が病気の脅威を見て見ぬふりをする態度を生むことや、権力者とお役所のことなかれ主義が病気への対応を鈍く遅くすることへの痛烈な批判があって、まさに現今の新型コロナウイルス流行をめぐる日本の官僚機構の弱点を抉(えぐ)りだしています。

 しかし、カミュの『ペスト』を純粋に疫病の流行とそれが生むパニックを描いた小説だと考えることも正しくありません。

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