メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

シリーズ・疫病と人間

コロナは巧妙に、現代社会の盲点を突く 寄稿・山極寿一(京都大学長)

山極寿一・京都大学長=望月亮一撮影

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界を覆っている。危機にさらされた現代社会をどう見るのか。山極寿一・京都大学長(68)に寄稿してもらった。

 ◆コロナは巧妙に、現代社会の盲点を突く 新たな連帯が要る。共感力を失わないために

 これほどまでに新型コロナウイルスの影響が広がると誰が予想しただろうか。中国の武漢で発生した時は、まだ楽観する見方が多かった。しかし、もはやどの国でも緊急事態宣言は必至という勢いで感染者も死者も膨大な数に上っている。エイズ、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、ジカ熱など、この数十年ウイルスによる新しい感染症が増加しているにもかかわらず、今回大きく混乱してしまった原因は何なのか。更に、たとえこの感染症が終結しても、もはやこれまでの状態に簡単に復帰できるとは思えない。強固な感染症対策を打ち立てるとともに、新たな経済秩序、国際関係、暮らし方を早急に考えていく必要がある。

 感染の拡大が危惧され始めた時、私の頭に浮かんだのはカミュの「ペスト」でも小松左京の「復活の日」でもなく、「猿の惑星」というSF映画だった。1968年に第1作が公開されて人気を博し、続編が次々に製作された。米国から打ち上げられた宇宙船が6カ月の飛行を経て地球へ帰還。地球時間は700年後の2673年になっている。4人の宇宙飛行士が出くわしたのは、人間の言葉をしゃべって文明生活を送る類人猿(オランウータン、ゴリラ、チンパンジー)と、言葉を失って飼育される人間だった。なぜそんなことになったのかは、続編を経て明らかになる。感染症の新薬を開発するため実験用に飼われていたオスのチンパンジーがある時、変異を起こして人間の言葉をしゃべるようになる。彼は策略を巡らして同じような境遇にある類人猿たちを解放し、自治区を設ける。その後、人間の世界ではあるウイルスによる感染症が急速に広がり、絶滅の危機にひんする。わずかに生き残った人間たちは言葉がしゃべれなくなり、この感染症に抵抗力を持っていた類人猿たちに支配されるようになったのである。

 ウイルス感染症は野生動物に由来する。中でもコウモリが元の感染源だとする説が多く、SARSはコウモリのウイルスがハクビシンを経て人へ、MERSもコウモリからラクダを経て人へ、という経路が推測されている。今回の新型コロナウイルスも、コウモリやセンザンコウから見つかったウイルスに遺伝子配列が似ているという報告がある。武漢では市場で野生動物が販売され、ここを通してコウモリから、あるいはコウモリからセンザンコウを経由して人に感染したのではないか、という臆測も流れている。コウモリは洞窟や樹上に集合して眠る習性があり、ウイルスに感染しやすいホスト(宿主)である。ウイルスとの接触が長く、感染しても発症することはない。感染を繰り返すうちにウイルスが変異して、他の動物や人に感染しやすい性質を持つようになるのだ。

 類人猿もこういった中間ホストになっている疑いがある。私が長らくゴリラの調査をしているコンゴ民主共和国やガボンでは、エボラ出血熱がたびたび勃発する。これも果実を食べるコウモリが感染源と言われ、ガボンではゴリラやチンパンジーが大量に死んだ。その現場を歩いたことがあるが、ゴリラはその地域でほぼ全滅していた。奇妙なことに、川を挟んでこちら側には全くゴリラの痕跡がないのに、反対側には群れがいくつも生存して…

この記事は有料記事です。

残り3795文字(全文5224文字)

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 長崎・佐世保の小6同級生殺害 「大丈夫」は大丈夫じゃない 妹を殺された兄、川崎医療福祉大で講演 /岡山

  2. ブルーインパルス飛行「プロセスはどうでもいい」 経緯明かさぬ河野防衛相に疑問の声

  3. 小学校でクラスター発生か クラスメート5人感染 北九州・新型コロナ「第2波」

  4. 政府、マイナンバー「全口座ひも付け」義務化検討 来年の法改正目指す

  5. 講演 被害者は家族にも話せぬことある 佐世保・小6同級生殺害事件を取材、毎日新聞・川名記者 /群馬

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです