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東京へ ともに歩む

毎日新聞

作家の三島由紀夫が観戦記でつづった1964年東京オリンピック開会式の聖火台点火セレモニーの様子=同年10月10日撮影

オリパラこぼれ話

「筆のオリンピック」 人気作家らが活躍

 「やっぱりこれをやってよかった。これをやらなかったら日本人は病気になる」。1964年10月10日の東京オリンピック開会式を見届けた作家の三島由紀夫は、翌日の毎日新聞の観戦記冒頭で感想をつづった。本人が開会式の頂点と位置付けた聖火の点火セレモニーについては「聖火台に火が移され、青空を背に、ほのおはぐらりと揺れて立ち上がった。地球を半周した旅をおわったその火の、聖火台からこぼれんばかりなさかんな勢いは、御座に就いた赤ら顔の神のようだ」と作家ならではの感性で表現した。

    1964年東京オリンピックで三島由紀夫の開会式観戦記を芸術家の岡本太郎の絵とともに掲載した毎日新聞

     同五輪はアジア初開催で、大会の模様はNHKなどが実況放送した。この年の白黒テレビ世帯普及率は87.8%(総務省2014年版情報通信白書)で、テレビはお茶の間の主役になっていた。一方、活字媒体の新聞社や出版社などは、こぞって当時の人気作家や評論家らを執筆陣に登用。観戦記や対談などを載せた。毎日新聞社は五輪の編集方針を「テレビ時代の中にあってテレビの追随を許さない紙面作り」とし、紙面の充実を図る中で三島を含めた作家の原稿を芸術家の岡本太郎らの絵とともに掲載するなどした。

     「1964年の東京オリンピック 『世紀の祭典』はいかに書かれ、語られたか」(石井正己編、河出書房新社発行)によると、三島以外に井上靖や丸谷才一、曽野綾子、安岡章太郎、石原慎太郎、松本清張、遠藤周作らそうそうたるメンバーの寄稿などが各新聞・雑誌に載り「筆のオリンピック」と評された。

     井上は聖火について、ギリシャからアジア各国を巡ってはるばる運んできたことに触れ「ちょっと類のない美しさを感ずる。大きい野外劇である」。松本は開閉会式を独自の視点で「開会式には素直に感動があった。秩序の感動である。閉会式は、万事が終ったという解放感と別離の陶酔である」とした。また、評論家の中野好夫がパラリンピックを「東京オリンピックのかげで、小さく美しく開いた一輪の花ということもいえないではない」と記述した。観戦記を書いた作家らの文章は競技に挑む選手のしぐさや表情などを一編の小説のように詳細に描写し、臨場感があった。

     遠藤は東京大会閉幕を受け「祭のあと」と題して執筆。人々の表情などに空虚感が漂っていることを指摘し「東京さんよ、これから、君は何をたよりに生きていくつもりか。今日まではオリンピックを目標にして、みなを巻きこみ、カンカン、ガンガン騒ぎたててくれたが……」と書いた。

     新型コロナウイルスの広がりで先が見えない。来年の東京2020大会に向けて、どのように考えたらいいのか。大会はどのような形を結ぶのか。筆の力が試されている。【関根浩一】

    関根浩一

    東京本社オリンピック・パラリンピック室委員。1985年入社。東京本社事業本部、千葉支局、成田支局、情報編成総センターなどを経て、2017年4月からオリンピック・パラリンピック室。サッカー観戦が趣味でこれまで多くの日本代表戦に足を運んでいる。最近はスコッチのソーダ割りを飲みながらボサノバを聴くのが楽しみ。