メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

社説

新型コロナと憲法 民主主義を深化させよう

[PR]

 新型コロナウイルスの感染拡大が憲法記念日の風景を変える。護憲、改憲両派による例年のような集会は見送られた。代わって、インターネットを利用した「オンライン集会」が登場する。

 コロナの感染拡大は、国会の憲法論議にも影響を及ぼしている。

 自民党は緊急事態への対処をテーマに憲法論議を始めるよう野党に求めている。安倍晋三首相は緊急事態条項の導入について「重く大切な課題」と述べ、国会の論議を促す姿勢を示した。

 緊急事態条項は大規模災害といった重大な事態が生じた時に、政府の権限を強める規定である。内閣は国会での審議を経ることなく法律と同じ効力を持つ政令を出すことが可能になる。

 自民党はコロナの感染が国会議員に拡大し国会が開会できなくなる恐れなどに着目し、衆参の憲法審査会で議論するよう呼びかけている。しかし、今回、緊急事態宣言が出された後も予定した審議は行われ、国会の機能が損なわれるような状況にはなっていない。

緊急事態条項は「劇薬」

 緊急事態条項は、自民党が2018年に策定した改憲条文案にも盛り込まれている。しかし、どんな状況になれば緊急事態になるのか、要件は明確ではない。

 安全と自由の二者択一を迫られるような状況になると、安全を選ぶ空気が社会の中で強まる可能性はある。緊急事態条項の議論自体を否定するつもりはない。

 だが、現行憲法は、軍部の暴走と国民の思想統制を許した明治憲法への反省から、国家に大きな強制力を与えることに慎重な仕組みになっている。人権は「公共の福祉」に反する場合に制限されることはあるが、適用は抑制的でなければならない。

 緊急事態条項は一歩間違えれば、基本的人権の尊重など憲法の大事な原則を毀損(きそん)する「劇薬」にもなる。

 いまはコロナの特別措置法に基づき、対策を尽くすときだ。その上で、現行法に不備があれば修正し、法令では対応できない場合に改憲論議に進むのが筋である。

 では、市民社会の安全が脅かされるような状況下で、何が支えになるのだろうか。

 ドイツのメルケル首相は3月、コロナの感染拡大で外出制限などを行ったことについて、テレビを通じ国民にこう語りかけた。

 「私たちは民主主義社会だ。何かをせよと強いられるのではなく、知識を共有し積極的な参画を促すことにより繁栄する。これは歴史的な任務であり、力を合わせることでしか乗り越えられない」

 移動の自由などの私権をいま制限することが民主主義にとってなぜ大切なのかを、メルケル氏は丁寧に説明した。

 もともとは、独裁政権だった旧東ドイツの出身だ。民主主義における自由の重みを知る人の要請であることが説得力を高めた。

他者を大切にする心を

 中国は、コロナの流行が最初に始まった湖北省武漢市の封鎖解除にこぎつけた。感染の中心が欧米などに移り、習近平政権は自らの国家体制の優位性をアピールしようとしている。

 だが、中国では政府の意思決定に関して国民はほとんど情報が得られない。これに対し、どういう物事が起きて、誰がどのような根拠に基づいて対応を判断したかが分かるのが民主主義社会だ。

 国民の理解を得るには時間を要する。迅速性という点では、権威主義的な国家体制の方が有利であることは否めない。

 しかし、民主主義社会では、民意がいったん形成されれば、人々が自ら協力する姿勢が生まれる。その方が持続性があり、警察力などを使って強制するよりも高い効果が得られる。

 早稲田大の長谷部恭男教授(憲法学)は「民主主義も、感染症対策も、一人一人の行動が全体にも影響を及ぼすと考えて行動することが大切だ」と語る。

 自分ひとりぐらい大丈夫と思ってみんなが出かけ始めると、感染者を減らすことはできない。

 要請が中心の日本の手法に対し、強制力の弱さを危ぶむ声が出た。そこを乗り越えるには、市民の役割が重要になる。

 危機が続いても、利己主義や差別する心にあらがいたい。自発的に他者を大切にし、民主主義を深化させていく必要がある。

 日本の民主主義社会の成熟、強さが問われている。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 「昇給に影響」総務課長が職員30人にメール パワハラで訓告 東山梨消防

  2. 大阪モデル基準変更 吉村知事「誤解与えないため」、山中さん「信頼揺らぐ」

  3. 「アベノマスク着用」 中学校で配布プリントに記載、保護者に謝罪 埼玉・深谷

  4. 「政権の終わりが見えた」支持率急落、自民主流派も首相を公然と批判

  5. コロナで経済苦の女性狙う キャバクラに勧誘容疑で少年逮捕 福岡

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです