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永寿病院の患者、相次ぐ転院拒否 「普通の人間なのにやるせない」

新型コロナウイルスの感染者が多数確認された永寿総合病院=2020年3月30日午前9時48分、本社ヘリから

 「ここを歩いてください」。廊下の床に引かれたラインに沿ってゆっくり透析室に向かう。永寿総合病院(東京都台東区)を退院した台東区の女性(82)は退院翌日の4月27日、久しぶりにかかりつけの透析専門病院を訪れていた。廊下を歩く途中、足元がふらついて手すりに触れると、そばにいた看護師がすぐに消毒した。

 この病院では、女性が移動できる場所と通路はすべて決められていた。

 依然として感染の可能性が否定できないため、退院後の2週間は、透析治療以外、自宅から出ないよう求められている。

 「私は3回も検査で陰性と出ている。全く普通の人間なのに、やるせない。ただ、世間ではそう見られているのね」。永寿総合病院を退院した患者の悲哀をまざまざと感じた。入院当時、看護師から「病院を出てからも大変よ」と言われたことを思い出した。

 ただ、この透析専門病院が自分を受け入れたことについては「本当にありがたいと思っている」と話す。拒まれていれば、永寿での入院がさらに長引いていた可能性があったからだ。

 永寿で集団感染が起きたことを受け、その患者が地域の訪問看護を受けられなかったり、転院を拒まれたりするケースが相次いでいる。

 「ご飯は食べていますか」「熱はありませんか」。4月上旬、同じ台東区にある訪問看護ステーションでは、自宅にいる4人の患者に看護師が電話で確認をしていた。

 このステーションでは永寿での集団感染が発覚した3月下旬から2週間、永寿に通院していたという理由で4人の患者への訪問を取りやめた。

 「万が一看護師が感染してしまえば在宅看護の医療崩壊が起きてしまう」と担当者は強調する。

 このステーションでは永寿での集団感染発覚後、ガイドラインを新たに策定。利用者に症状がなくても、集団感染が発生した病院を利用していれば感染の可能性があると見て対応することを決めた。

 ただ、別の病院で集団感染が判明したケースでは、頻度を減らして訪問を続けており、一様に電話確認に切り替えるわけではないという。「電話確認が可能だったのは4人の家族らがいずれも患者の近くに住んでおり、何かあれば様子を見に行ってくれたから。もし近くではなかったら、改めて難しい判断を求められる」と担当者は話す。

 都内のある病院は永寿から打診があり、院内で患者を受け入れるか会議を開いた。

 賛成意見もあったが、「院内の患者や看護師が感染した時どう対応するのか」と現場サイドから強硬な反対論が出たという。

 この病院には重度の介護が必要な高齢者が入院している。「体力のない患者が多く、1人でも陽性になったら多くの人が亡くなる危険がある」として、1時間を超える議論の末、最終的に受け入れを断る方針が決まった。

 病院の担当者は「永寿から出られない患者は可哀そうだが、彼らをどうすればいいのか、誰も答えを持っていない。みんな自分たちの病院を守るので精いっぱいなんです」と話した。

 都内の別の総合病院は現在、永寿からの転院を一切認めていない。「院内の感染が完全にコントロールできているかが問題だ。今もリスクが一定程度あると考えざるを得ず、永寿から受け入れるのは難しい」と病院幹部は打ち明ける。

 当初は受け入れていなかったが、条件付きで患者の転院を認めるようになった病院もある。「PCR検査で陰性となった患者であっても、その後陽性に変わる可能性はある。受け入れには、陰性判定から2週間程度置き、改めて陰性の結果が出るなどの安心材料が必要だ」と担当者は強調した。

 都医療安全課によると、院内感染が発生した病院の入院患者の退院・転院について、濃厚接触者とみなされなければ検査も経過観察も必要ない。だが、同課は「受け入れ先を見つけるのが難しく、退院が先延ばしされるケースもある」としている。【林田奈々、遠山和宏】

 台東区で最も多い400床を有する全26科の中核病院である永寿総合病院は、どのようにして新型コロナウイルスの感染が広がり、国内最大規模のクラスター(感染者集団)発生地となったのか。関係者への取材や、厚生労働省クラスター対策班の報告書をもとに経過をたどる。

 集団感染が始まっ…

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