大学教育どうなる、大学や学生間の格差は 一線の研究者の思いを実名で紹介 新型コロナ教員アンケート
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新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言により、全国の大学は構内立ち入り禁止やインターネットによる遠隔授業の全面導入など、前代未聞の対応を迫られている。大学現場への影響について、毎日新聞は4月下旬、全国66大学の教員111人を対象にアンケート調査をした。約6割から寄せられた回答では、多くの教員が現状の問題点や将来への不安をつづった。大学教育のあり方、地方大学の悲哀、将来的な世界の姿など、一線の研究者らがこの時代に抱える思いを紹介する。
<教育、学費への影響>
磯崎敦仁・慶応大准教授(北朝鮮政治)
とりわけ大きな問題は、1年生対象の初修外国語です。初めて学ぶ第2外国語をオンライン教育にするのは困難を伴います。一方通行の授業であれば、完成度の高いテレビ・ラジオ講座に完敗してしまいます。パソコンの有無やWi-Fi(無線LAN)環境など学生間格差を考慮すると、授業運営は保守的になりがちです。また、対面試験が不可能な場合、いかにして公平な成績評価をすべきか早急に考えなければなりません。
余談ですが、私の場合、研究者とはいえ書斎を持っていません。長年、自宅では食卓で研究を進めてきました。今は家族皆が在宅で、映像授業をどこで行うかは毎時間迷いどころです。同じ悩みを抱えている学生さんもいるのではないでしょうか。
井上義和・帝京大准教授(教育社会学)
学費と経済的支援は区別して考えるべきだ。家庭の事情やアルバイト事情によって経済的に困窮する学生に、納付期限を延ばしたり支援金を給付するのは大賛成である。それに対して、学費は教育活動全体に参加する権利を保障するものだから、還付の必要はない。教育活動には教室での講義だけでなくさまざまな学習支援も含まれる。これは対面でも遠隔でもかわらない。学生は教師と学問的な対話をする権利があり、教師にはそれに真摯(しんし)に応える義務がある。教師の専門知や学習の助言を引き出せるのは、学費を納めた学生の「特権」といってもよい(学費を納めない学外者が専門家にいきなり質問しても普通は相手にされない)。遠隔授業でも、教師はコミュニケーション手段を複数確保しているはずだから、学生は積極的に権利を行使してほしい。
<大学間、学生間格差>
箱田徹・天理大准教授(思想史)
大手私大や旧帝大以外の大学は、政府が財政負担を減らし続けているため、経済的に苦しいところが多い。私大の収入の大半は学生の納める学費や施設費であり、支出に占める賃金など固定費の割合も高い。他方で、現場は常に経営側からの固定費≒人件費削減圧力にさらされている。予定通りの収入がなければ、労働者の賃下げ、中期的な施設改善計画の繰り延べにとどまらず、大学が傾いて、学生の利益をかえって損ねかねない。学費減免などの原資は100%国の財政支出とすべきだ。
加えて言えば、今後も遠隔講義の流れは止まらず、大学の経営体力が露骨に問われるだろう。大学の情報インフラ(通信回線の太さなど)の質が重要になる。それを継続的に維持拡大可能な地方私大は一握りだろう。この状況をうまく切り抜け、教職員がまともに働ける職場をつくり、教育研究面で差異化できれば、チャンスはめぐってくるはずだ。世論形成を考えると、マスコミ、上場企業社員、公務員、大学教員の大多数は有名大学出身者だ。「大学」というと、数十年前の自分の経験(文系は特にマスプロ型講義)を連想する人が多い。これも大学の実情が伝わりにくく、冷静な議論ができない一因ではないか。
島田尚徳・沖縄大講師(行政学)
子どもの貧困率が高い地域にある小さな私立大学ですので、世帯所得が低い学生も少なくありません。本人のアルバイトがほとんどなくなり、両親の仕事も不安定になると、生活自体が困難を極める学生も出てくるかもしれないと不安視しています。さらに、4年生、3年生は就職活動にも不安が募っていると思います。内定が得られず、なおかつ退学となれば、特に新卒採用で学歴による区分を設けている会社が依然として多いことから、エントリーできる会社が減ってしまうかもしれません。また、経済的な理由で自宅にWi-Fiがない、パソコンがない学生もいます。IT(情報技術)が利用できないことによる機会喪失は、経済的に恵まれていない学生に集中します。現状、大学生ら若者が抱える問題は、個人で解決できる問題ではなく、社会で解決すべき「公共的な問題」ではないでしょうか。政府がさらなる施策を検討するよう求めたいと考えています。
<今…
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