検察庁法改正案の審議が衆院で始まっている。検察官の定年を引き上げるとともに、内閣や法相の判断で定年を延長できる規定が新たに盛り込まれた。政府は、今国会での成立を目指している。
なぜ、今、法改正する必要があるのか。政府は説得力のある説明を全くできていない。そもそも法務省は昨秋、改正案を作成する際に、定年延長の規定は特段必要ないとの立場を取っていた。
発端は、1月に黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことだ。これにより政権に近いと目される黒川氏は、検察トップの検事総長就任に道が開けた。
脱法的だとの批判が相次ぎ、検察内部からも説明を求める声が上がった。安倍晋三首相は後になって、法解釈を変更し定年延長を可能にしたと言い出した。
変更後の解釈を法制化するのが改正案の内容である。黒川氏の人事について、つじつま合わせを図ろうとの思惑は否めない。
改正案は、検事総長を除く検察官の定年を63歳から65歳に引き上げる。63歳になったら検事長や次長検事、検事正などの幹部には就けない役職定年制を導入する。
一方で、役職定年や定年を迎えても、内閣や法相が必要と認めれば、最長で3年間、そのポストにとどまれる。
これでは時の政権の思惑によって、検察幹部の人事が左右されかねない。政権にとって都合のいい人物が長期間、検察組織を動かすという事態も起こり得る。
検察官は行政組織の一員であると同時に、刑事訴追の権限をほぼ独占する「準司法官」でもある。社会の公正を保つ立場として、政治的中立性が求められる。
そのため、一般の公務員とは任免の取り扱いが異なるべきだと考えられてきた。検察庁法に定年延長の規定は設けられず、国家公務員法の定年延長規定も適用されないとの解釈が続けられてきた。
検察庁法改正案は、国家公務員の定年を引き上げる法案の一つとして、一括で国会に提出されている。しかし、検察官の定年は権力の分立にも関わる問題だ。別に議論されなければならない。
新型コロナウイルス対策の審議に紛れて、成立を急ぐことなど許されない。