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「互助」が必然になる 疫病は世界史の転換点に ジャレド・ダイアモンド博士

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米カリフォルニア大ロサンゼルス校のジャレド・ダイアモンド教授=本人提供
米カリフォルニア大ロサンゼルス校のジャレド・ダイアモンド教授=本人提供

 コロナ禍の世界的拡大を考えるシリーズの第4弾。世界的ベストセラー「銃・病原菌・鉄」などの著書で知られる米国の生物地理学者で、カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)教授のジャレド・ダイアモンド博士(82)に、人類が今なすべきことを聞いた。【聞き手・ロサンゼルス福永方人】

危機管理にたけた国

 新型コロナウイルスは、実は特別なウイルスではない。致死率は2%台との指摘もあり、過去に猛威を振るった天然痘の30~50%や、マールブルグ病の70%、流行当初はほぼ100%だったエイズなどと比べて低い。感染力は強いが、むしろやや穏やかなウイルスと言える。

 世界中に感染が広がったという意味で今回は1918~19年のインフルエンザ、通称「スペイン風邪」以来の大規模なパンデミック(世界的大流行)となったが、当時との大きな違いは2点ある。まず、世界の人口が当時の約18億人から現在は約77億人と4倍以上に増加したことだ。人口が増えれば、単純に感染者も死者も増える。もう一つは交通網の発達だ。グローバル化が進み、特に飛行機で人々が国を越えて頻繁に移動するようになったことで、感染拡大のペースがはるかに速くなった。新型コロナは流行の波が再来する可能性もあり、終息には数年かかるかもしれない。そうなれば、最終的な死者数は(推計2000万~5000万人とされる)スペイン風邪を上回る恐れもある。

 米ジョンズ・ホプキンズ大などがコロナウイルスのパンデミックを予測し、警告を発していたにもかかわらず、ほとんどの国は備えていなかった。唯一、準備ができていたと言えるのは北欧のフィンランドだ。マスクやガウンなどの個人防護具の備蓄が豊富で、感染拡大を抑えられている。背景には、第二次世界大戦で国境を接する旧ソ連に侵攻され、多大な犠牲を払って辛うじて独立を保ったことによる教訓がある。それ以来、フィンランド政府は弱小国としての自覚と自国防衛の意識を高め、戦争のみならず感染症を含むさまざまなリスクに対処するために物資や食料を備蓄し、危機管理体制を強化してきた。

 アジアの国々は新型コロナへの準備はできていなかったが、抑止に成功している例が少なくない。ベトナムやシンガポールは動きが早く、スマートフォンのアプリを活用するなどして感染者や濃厚接触者の隔離・追跡を徹底した。特に経済や科学の水準が高いとは言えないベトナムが、強力で効率的な対策を講じることができているのは驚きに値する。2002年に中国から広がったSARS(重症急性呼吸器症候群)流行の経験が生きたのだろう。韓国は新興宗教の信徒を中心に集団感染が起きて以降、検査と隔離を強力に進めた。今も名目上は北朝鮮と「戦争状態」にあるため、危機の際には政府に従い団結するという国民性が奏功したように思う。

科学軽視の弊害、拙劣な米政府の対応

 一方、米国政府の対応は拙劣だった。トランプ大統領は当初「季節性インフルエンザのようなものだ」などと甘く見て初動が遅れ、感染拡大を食い止められなかった。気候変動問題への対応などと同様、科学を軽視する姿勢の弊害が表れた形だ。トランプ氏はその後も記者会見で、治療法として科学的根拠のない「消毒液の注射」などを提案した。そんなことをしたら死んでしまう。さらに自身の責務を果たすことよりも、ウイルス発生源とされる中国に責任を押し付けることに躍起になっている。ひどいものだ。ただ、米国でも州政府レベルでは最初に外出禁止令を出した西部カリフォルニア州のように、素早い対応で感染拡大を比較的抑えているケースもある。

 米国の感染者数、死者数が世界最多になっているのは(世界3位と)人口が多いことも原因だ。世界で人口が多い国のうち、中国(世界1位)は初動は遅れたが、その後、強権的な手法で感染拡大に歯止めをかけた。インド(同2位)とインドネシア(同4位)は、感染拡大の始まりが米国より遅かった。この両国は感染者が増え続けており、医療体制も脆弱(ぜいじゃく)なため、今後、死者数は米国を上回る可能性がある。

 欧州で興味深いのはスウェーデンの対応だ。ロックダウン(都市封鎖)をせず、小・中学校や飲食店も閉鎖しない独自路線を続ける。この手法は「集団免疫」の獲得を目指す「水ぼうそうパーティー」に似ている。これはワクチン接種に反対する親たちが、水ぼうそうに感染した子供を他の子供たちと交流させて、意図的に感染を広げる集まりを指す。そして子供たちの集団が「免疫」を得ることで、重症化リスクの高い大人への感染拡大を防ぐというものだ。ただ、水ぼうそうは子供の致死率がかなり低いが、新型コロナは若者が死亡するケースが少なくない。スウェーデンの作戦が成功するかどうかは、7月ごろまで待たないと評価できない。

日本の状況を憂慮

 日本の状況については憂慮している。日本政府は地震対策には力を入れているが、原子力発電所の事故と同様、感染症への備えは不十分だった。東京に住むいとこやめいからも随時、情報収集しているが、ロックダウンもせず、感染経路の追跡も緩いように思える。一部の飲食店など、人々が近距離で接触しかねない場所もまだ開いており、パンデミックへの対応として適切ではない。安倍晋三首相は他国のようにもっと強力な措置に切り替えるべきだ。「自国だけは例外」と考えることは、危機を乗り越える際の障害になる。日本は重症化しやすい高齢者の割合が世界的にも高く、死者がさらに増えていく可能性も否定できない。

 疫病は世界史の転換点になり得る。古くは16世紀、スペインが中南米のアステカ帝国やインカ帝国を滅ぼし、植民地化できたのは、スペイン人が宿していた天然痘が先住民の間で大流行した影響が大きい。欧州は既に天然痘の流行を経験し、スペイン人は免疫を獲得していた。だが先住民は免疫を持たなかったため、人口の95%が犠牲になり、アステカ、インカ両帝国の皇帝や廷臣たちも命を落とした。スペインはそうした混乱につけこみ、さらに当時の米大陸にはなかった鉄製の武器や騎馬の威力も駆使し、征服を成し遂げたのである。

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