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社説

検察庁法改正見送り おごりと緩みゆえの失態

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 新型コロナウイルスの感染防止対策に全力を挙げなければならない時、どさくさ紛れに突き進もうとした末の失態だ。

 内閣の裁量で検事総長や高検検事長らの定年延長を可能とする特例を盛り込んだ検察庁法改正案は今国会での成立が見送られた。

 改正案は、検察官の定年を65歳に引き上げ、検事長や最高検次長検事らに63歳での役職定年を設ける。一方で内閣や法相が必要と認めれば、役職定年や定年を最長で3年間、延長できるようにする。

 検察官は首相や閣僚の不正を捜査することもあり、政治からの独立が求められる。定年延長の規定は、政権の思惑によって検察人事が左右される懸念をはらむ。

 安倍晋三首相は改正案の成立見送りについて、「国民の理解なくして前に進めていくことはできない」と述べた。しかし、問題は国民への説明不足ではなく、検察の独立性を損ないかねない法案そのものにある。

世論を軽視したツケ

 コロナ禍で安倍政権の初期対応は遅れた。その後も、収入減少世帯への現金30万円支給を閣議決定した後に、一律10万円給付に方針転換するなど迷走を続けている。

 非常時に大きな問題がある法改正を強引に進めようとする政権の姿勢に、国民の怒りが拡大したのだろう。ツイッターの投稿による異例の抗議が広がった。

 安倍政権は、一度決めたことは批判されても数の力で押し切る政治姿勢を取ってきた。選挙で勝てば、あたかも白紙委任を得たかのように振る舞ってきた。

 今回は、世論を軽視するそうした政権のおごりと緩みが招いた結果だと言える。

 検察官は行政機関の一員だが、あらゆる犯罪の捜査が可能で、起訴の権限をほぼ独占している「準司法官」でもある。

 だからこそ、任免は一般の公務員と異なる扱いが続けられてきた。意に反して辞めさせられることは原則としてないが、定年を迎えれば例外なく職を離れてきた。

 安倍首相は「検察官は行政官であり、三権分立は侵害されない」と説明している。内閣が検事総長や検事長、次長検事を任命することは従来と変わらず、「恣意(しい)的な人事が行われることはない」と強調した。

 しかし、改正案では検事総長が68歳まで留任することが可能になる。政権にとって都合のいい人物が長期間、検察を動かすことも起こり得る。こうした仕組みをつくること自体が問題だ。

 法改正により、検察に対する国民の信頼も揺らぐ恐れがある。証拠に基づいて政治家を不起訴にしたとしても、政権に配慮したと思われる可能性が出てくる。

 このため、検察OBも反対の声を上げた。松尾邦弘・元検事総長らは意見書で、改正案は検察を政権の意のままにしようとするものだと指摘した。東京地検特捜部長の経験者らも、再考を求める意見書を出した。

検事長巡る決定撤回を

 そもそもの発端は、1月末に黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことにある。前例のない人事で、政権に近いと目される黒川氏に検事総長就任の道を開く脱法的手法と批判された。

 政府は、国家公務員法の定年延長規定が検察官に適用されないとの解釈を取ってきた。それを国会で指摘されると、安倍首相は法解釈を変えたと言い出した。解釈変更の具体的な経緯は、公文書として残されていない。

 この解釈変更を明文化するのが検察庁法改正案である。黒川氏の人事を「後付け」で正当化するものだとの疑念は拭えない。

 政府・与党は今後、定年延長の基準を明確にして、秋の臨時国会で成立を目指す方針だという。これでは、当面の批判をかわすだけの先送りに過ぎない。

 黒川氏の定年延長について、政府はこれまで「重大事件の捜査・公判に対応するため」と説明するにとどまっている。基準を設けたとしても、具体的な内容は明かされない恐れが強い。

 高齢化に伴って、検察官も定年の引き上げは必要だろう。とはいえ、議論を進めるならば、定年延長の特例は削除すべきだ。

 黒川氏は8月7日に定年延長の期限を迎える。検事総長に就任することになれば、恣意的な人事との疑念を再び呼ぶことになる。改正案の議論に入る前に、黒川氏の定年延長を取り消す必要がある。

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