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平松 洋子・評『フジモトマサルの仕事』コロナ・ブックス編集部/編
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「異能の人」の作品世界の扉をあらたに開く、記念碑的一冊
◆『フジモトマサルの仕事』コロナ・ブックス編集部/編(平凡社コロナ・ブックス/税別1800円)
フジモトマサルさんに初めて会ったのは、90年代半ばだった。その場に五、六人が集っていたことは覚えているのだが、なぜか浮かんでくるのはフジモトさんの顔だけなのだ。くるっと大きな眼とお坊さんみたいな立派な頭蓋(ずがい)が鮮烈だったからだろうか。そのあと数年続いた交流のなかで、外国の家電に目がないんですと言っていたのも、なぜか忘れられない。以来ずっと、私の脳内では、秋葉原のヤマギワ電気の外国家電製品コーナーを徘徊(はいかい)しているフジモトさんの姿が固定化されている。
五年前に亡くなった漫画家・イラストレーター、フジモトマサルの作品世界にずっと惹(ひ)かれてきた。二本足で立って動く輪郭のくっきりとした動物たちが喋(しゃべ)ったり、お茶を呑(の)んだり、旅に出たり。彼らは動物の真の姿なのか、それとも動物の姿を借りた人間なのか、領域が茫洋(ぼうよう)としているのだが、いっぽう作品世界には奇妙な緊張感と強度が張り巡らされている。スタイリッシュで、ユーモラスで、どこか…
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