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聖地「御嶽」を旅する

ステイホームで旅(10) 三重グスク(那覇市) 普段と違う世界観と接してみたら

三重グスク。ほこらの前で祈る女性が2人。旅客機が通過していく=那覇市で2015年11月、伊藤和史撮影

 新型コロナウイルス禍。世界の何が変わらないといけないのだろうか。そんなことを考えるのには、ステイホームも悪くない。家にいて、見たい景色や行きたい場所に想像をめぐらせる「ステイホームで旅」の第10回は、那覇市の御嶽(うたき)などを巡る。世界のこれからを考えるヒントでも見つからないだろうか。【伊藤和史】

 那覇市の中心街からごく近い、海沿いに「三重(ミー)グスク」がある。繁華街の国際通りからも歩いて行ける。「ロワジールホテル&スパタワー那覇」(那覇市西3)という大きなリゾートホテルのすぐ先のちょっとした茂みの奥だ。

 ここは那覇港の出入り口に当たる。グスク(城)の名の通り、もともとは港を守る城砦(じょうさい)で、堅固な石垣や砲台もあったという。「沖縄拝所巡り300」(比嘉朝進著・那覇出版社)によると、16世紀、琉球王国・第二尚氏王統の尚清王(在位1527~55)の時代、当地の豪族が外敵の侵入に備えて築いたという。もっと古いと考える説もあるようだ。なお、尚清王は首里城の有名な建築、守礼門創建時の国王である。

 三重グスクは今は埋め立てられた影響で、往時の様子はほとんど見られないという。だが、敷地内の岬の突端に拝所がある。港という土地にふさわしく、ここは航海の安全を祈願する聖地なのだ。

 初めて訪れた時のことが印象深い。2008年の初夏。「沖縄学の父」と敬愛される伊波普猷(いは・ふゆう)(1876~1947)の業績を調べていて、伊波ゆかりの場所や写真を探してみた。しかし、沖縄戦での破壊が激しく、なかなかそれらしい建物などに行き合えないでいた。その時、伊波の弟子を自任する歴史学者の高良(たから)倉吉氏(現在は琉球大名誉教授)が「別れの名所」として教えてくれたのが三重グスクだった。

 沖縄の人々はこの岬に立って、本土や先島(宮古・八重山)に向かう家族や知人を見送ったのだという。もちろん、沖縄の地位向上という使命感に燃えて上京し、学問を修めて帰郷した伊波の船も、ここを通ったというのである。

 なるほどと納得して出かけてみると、岬の突端に座って、お供え物をして、何やら拝んでいる女性がいた。尋ねてみると、東京にいる孫の安全を願いにやってきた、と教えてくれた。まさにその前日の2008年6月8日、東京・秋葉原でトラックの暴走に始まる無差別殺傷事件が起きていたのだった。

 いいものを見せてもらった、と思った。孫のために、何はさておき、事件の翌日ここにやってきた人がいるのだ。そうか、これが沖縄の祈りなのか……。明治時代の伊波普猷の船旅の頃や、さらにもっと以前からの願いの姿が目の前で展開している。われわれが普通に依拠する行動の基準、例えば、費用対効果とか効率とかいったものの彼岸にあるような純粋で充実した行為に見えた。

 まばゆいビーチリゾートも、国際通り辺りのにぎわいも大好きなのだが、そういう魅力と…

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伊藤和史

1983年入社。岐阜支局、中部報道部、東京地方部、東京学芸部、オピニオングループなどを経て、2019年5月から東京学芸部。旧石器発掘捏造(ねつぞう)事件(2000年)以降、歴史や文化財を中心に取材

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