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ALL FOR 2020

東京へ ともに歩む

毎日新聞

落語芸術協会と三重県伊勢市が共催する落語会「芸協らくご 伊勢おかげ寄席」のPRをする三遊亭小遊三さん(右)=三重県伊勢市で2019年11月20日、尾崎稔裕撮影

東京・わたし

小遊三さん「寄席に出たい。お客さんが心から笑えるように」

 新型コロナウイルスの感染拡大で、東京2020大会は1年延期という史上初めての事態になった。落語家の三遊亭小遊三(さんゆうてい・こゆうざ)さん(73)は、聖火ランナーとして山梨県内を走る予定だった。それが一転「STAY HOME」の事態に。日本テレビ系の演芸番組「笑点」の大喜利メンバーでもある噺家(はなしか)は何を語るのか。電話でたずねた。【聞き手・柳沢亮】

     ――ウイルスの感染がずいぶん広がってしまいました。まさかこんなことになるとは。

     ◆怖い、怖いですよ。持病がある人や高齢者が重症化するってんでしょ。私も高齢者で高血圧の持病がある。だからずっと家にいますよ。私は引きこもっていればいいだけですが、医療関係者は本当に大変。最前線で寝る間もなく働いているのはすごいことですよ。

     ――どのような毎日ですか。

     ◆朝起きて、約20分間はストレッチや腹筋のトレーニング、運動をする習慣ができました。かみさんは「歩いた方が良いに決まっているわよ」と言うんだけれど、それは好きじゃない。歩くのはよんどころないときだからね。私が歩いていたら怪しいやつに見えるじゃない。若いときは生活リズムが乱れれば体調を崩すでしょうが、この年になると精神が安定するし、いい休息になって、テレビを自由に見られますから。あとは古着や資料の整理をしていますよ。

     卓球とゴルフが趣味なんですが時期がくる(収束する)まで我慢しなきゃね。読書? 本は電車でないと読めないんです。家だと1ページで寝ちゃうね。あとは夜に酒を飲むぐらい。午後10時過ぎには寝ちゃう。こんな規則正しい生活は噺家になって初めてですよ。寄席に出ているときは、終わるのが午後9時。地方から新幹線で帰ってくれば午後11時ごろになるからね。

     ――東京2020大会が1年延期になりました。聖火ランナーとして故郷を走る予定でしたね。

     ◆今のままではオリンピックやパラリンピックも来年にできるかどうか、わからないですね。だから今は何も考えていないですよ。落胆とかそういう気持ちもない。まずはウイルスがどこに行っちゃったんだと思えるくらいの状況になることが先。(東京2020大会は)そりゃあったほうがいいですが。

     ――仕事にも大きな影響が出ているのではないでしょうか。

     ◆3月の仕事は2、3本でした。普段から8割減りました。4、5月は「笑点」の収録以外はゼロ。収録は最初の頃は、無観客でやったんですがね、今は自宅で収録する「リモート大喜利」になっちゃった。これは、お客さんがいる収録と比べて全然違います。なにしろ失敗するわけにはいかないという緊張感がない。生の反応を見ながら語尾や話の速さ、声の抑揚、仕草などを変えるんですよ、普通は。やっぱりお客さんがいなきゃ。寄席はたくさんのお客さんと一緒に盛り上がらないと価値が損なわれちまう。

     ――寄席が開けず、みなさん危機を感じていらっしゃるんでしょうね。

     ◆ずっと心配していますよ。寄席が開けても、お客さんは戻ってくるのか、地方公演なんてなくなっちゃうのではないか。若手の収入減はもっと深刻です。私たちの頃に比べて人数が多いから競争も激しいんですよ。それに加えてこんな厳しい状況で、これから噺家になろうという若者が出てくるのかという心配もある。昔は、戦争中でも噺家になろうという人はいたんだけどね。

    「家にこもっている」という三遊亭小遊三さん=大有企画提供

     ――「家にいながら落語を楽しんでもらおう」とオンライン配信している噺家もいますね。

     ◆若手はそういう(インターネット利用する)ことに慣れているから、楽しんでくれるとは思います。ただ私はやる気にならないね。ガラケー(従来型の携帯電話端末)だし、自宅にインターネットの環境も整っていない。ネットで落語をやってくれと言われても、目の前にお客さんがいないところでは自分で満足いくものはできないと思うんです。若い人はわかりませんよ。昔、噺家ってのは「あってもなくてもいい商売」ではなく「なくてもなくてもいい商売」と脅かされて前座をやったものです。この状況では、落語ができないっていう覚悟はできています。

     ――私たちが今できることは何でしょうか。感染拡大防止のために「新しい生活様式」も示されました。

     ◆1億人がその通り生活するのは無理がありますね。食事は横並びとか、会った人はメモをするとか、大きなお世話ってもんだ。「新しい生活様式」なんて言って、国が力んでやらせようとすることではないですよ。

     ――感染拡大が収束したら、やりたいことはありますか。

     ◆寄席に出たいし、ゴルフや卓球を心置きなくやりたいね。寄席はコロナウイルスの感染が拡大する前は何年も右肩上がりでした。景気が悪いときにもお客さんが多く入っていたことがある。なくてもなくてもいいんじゃないんだね。今は、お客さんが落語を聞いて心から笑えるようになってくれりゃいい。それだけですよ。そのために、とにかく専門家の話を守って早く収束させること。それからみなさん、どこかの居酒屋で会いましょう。

    さんゆうてい・こゆうざ

     1947年3月生まれ、山梨県大月市出身。明治大在学中に三代目三遊亭遊三に入門。83年、真打ちに昇進、同年から日本テレビ系の人気演芸番組「笑点」の大喜利メンバーとなる。文化庁芸術祭優秀賞を2回受賞。落語芸術協会副会長を経て現在は参事。

    柳沢亮

    毎日新聞オリンピック・パラリンピック室員。1990年埼玉県生まれ。2013年入社後、新潟支局、東京経済部を経て19年5月から現職。高校時代は野球部に所属し、本塁打数は通算1本(非公式)。草野球の試合にいつ呼ばれてもいいように定期的にグラブを磨いているが、いまだ出番はない。最近の楽しみは、相思相愛の長男と近所の児童館で遊ぶこと。