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山崎正和・評 『レイシズム』=ルース・ベネディクト著、阿部大樹・訳

『レイシズム』

 (講談社学術文庫・1012円)

 左利きのための鋏(はさみ)が発売されたのは、二十世紀も半ばのことであった。私の幼年期、親も学校も左利きの子を右利きに矯正する教育に励んでいた。私は眺めていただけだが、今の基準ではあれは無意識の差別だった。

 1940年、世界はきわめて意識的な差別感情に襲われ、差別をめぐる大戦の渦中に脅(おび)えていた。新しい差別の口実は「人種(レイス)」と呼ばれ、十九世紀末に遡(さかのぼ)る似非(えせ)科学を根拠としていた。従来の宗教的異端、階層差や言語、風俗にもとづく差別とは異なり、人種は肌の色や頭蓋骨(ずがいこつ)の形態など遺伝形質に注目する点で、差別はかつてなく宿命的な重みを増すことになった。著者はこの時期に本書の筆を執り、人種差別の無根拠を暴き、欺瞞(ぎまん)に反対する史上最初の人となった。

 当然、筆法は論争的となり、ナチスの掲げる「アーリア人種」が虚構にすぎず、歴史的にも人類学的にも破廉恥な嘘(うそ)であることが暴露される。ユダヤ人迫害が異教排斥でも異文化排除でもなく、じつは殺害を伴う財産強奪にすぎなかったことも告発される。第二次大戦の勃発はその前年だから、著者の主張は結果として、連合軍の対独開戦の理論的根拠、宣戦の理念の表明にもなっている。

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