特集

今週の本棚

「面白い!読ませる!」と好評の読書欄。魅力ある評者が次々と登場し、独自に選んだ本をたっぷりの分量で紹介。

特集一覧

今週の本棚・話題の本

『世界は贈与でできている』=伊藤亜紗

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
『世界は贈与でできている』
『世界は贈与でできている』

 医療従事者や宅配便の配達員さん、あるいはスーパーの店員さんと接するたびにもどかしい気持ちになる。感染のリスクを抱えながら働いている彼らに、うまくお礼が言えないのだ。「ご苦労様です」。そう言ってみるけど、まるで彼らの快適なサービスにお礼を言っているようで白々しく響いてしまう。

 サービスに還元することのできない何か。つまりは金で買うことのできない何か。若き哲学者、近内悠太はそれを「贈与」と呼び、デビュー作『世界は贈与でできている』(ニューズピックス・1980円)において、資本主義の生産性とも合理性とも違う世界の姿を描きだす。

 近内の贈与論の面白さは、受け取る側の立場から描かれている点にある。人は、何かを受け取るとお返しをしなければならないと感じる。そのことによって生じる「切れない関係」こそ、贈与の機能だと論じられてきた。しかし、と近内はここで問う。何も返すものを持たない者は、贈与のネットワークに参加することはできないのか、と。この問いは、相模原障害者殺傷事件や性的マイノリティーへの差別的発言を思い起こさせる。

この記事は有料記事です。

残り364文字(全文824文字)

あわせて読みたい

マイページでフォローする

ニュース特集