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加藤陽子・評 『五・一五事件』=小山俊樹・著

『五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」』

 (中公新書・990円)

 歴史家は因果な商売だ。コロナ対策で政府がマスクを配ると聞けばインパールの文字が浮かび、現在と過去の脳内対話も始まる。一方、歴史は一回性を特徴とするとの理性の囁(ささや)きが聞こえ、結果として腹ふくれることとなる。

 そこで今回は、評者の屈託とは無縁な新進気鋭の歴史家によって書かれ、多くの新知見と独創に富む好著を紹介したい。1932年5月15日、犬養毅首相は官邸で暗殺され、これを機に政党政治も終焉(しゅうえん)した。事件の全容を描いた第1章「日曜日の襲撃」は、一見楽々と書かれたように見える。だが、海軍将校・陸軍士官候補生・大学生・農村青年といった多様な参加者の当日の動線を、首相官邸・内大臣官邸・警視庁・変電所といった襲撃場所別に、当事者のみが知る史実を織り込みつつ正確に記すのは簡単なことではない。犬養を撃った三上卓の銃が旧式で一発ずつ装塡(そうてん)が必要だった事実など新鮮だ。ラジオで本書の一部をアナウンサーが朗読するのをたまたま耳にし、眼前に映像が浮かんできたのには驚いた。本章がいかに良く書けていたかが腑(ふ)に落ちた。

 本書の著者は、二大政党制を支える論理「憲政常道論」の二つの型を軸に戦前期政党制の消長を考えてきた人である。その著者が挑んだのは、一見簡単そうだが実は解かれてこなかった疑問、すなわち、なぜ海軍青年将校は事件を起こしたのか、なぜ政党政治は終わったのか、なぜ国民の多くは青年将校らに同情し減刑を要求したのか、の三つの問いだ。

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