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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「文明とは消毒である」。約90年前に…

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 「文明とは消毒である」。約90年前に英作家ハクスリーが書いた小説「すばらしい新世界」にある未来社会の標語だ。生殖も工場生産化された機械文明により快楽と幸福とを半ば強制された超管理社会である▲胎児工場での予防注射で病気の恐怖から解放され、先の標語も睡眠中の学習によって子どもにうえつけられる。この文明は、炭疽菌(たんそきん)爆弾に汚染された大戦争後の世界で生まれたそうだ。今こう聞けば、コロナ後社会を連想してしまう▲「真理や美よりも万人の幸福が重要」とは新世界を管理する統制官の言葉だ。それによると自由は「不幸になる権利」で、それを求めるのは変人ということになる。だが21世紀の今日では、まだ“変人”らの抗議の声が聞こえてくる▲香港への統制強化を図る国家安全法制導入方針が中国で採択され、香港市民の抗議がコロナ禍への規制をかいくぐって再燃している。香港の反政府運動を国家反逆として摘発できる法制で、施行されれば1国2制度は有名無実となる▲思えばコロナ禍では、強権による医療資源集中とITを駆使した国民統制で国内感染を封じた中国だった。その成果を文明のモデルのように自賛するのをみれば、未来は個人の自由や尊厳も「消毒」されていくのかと空恐(そらおそ)ろしくなる▲だがコロナ禍制御といえば台湾や香港も自由を維持しながら成果を収めた。中国の香港締めつけには米国が強い反発を見せ、欧州も厳しい目を向ける。前途は多難の「すばらしい新世界2020」である。

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