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本を開いて遠い世界へ/下 科学書が語る「扉は身近な所に」=独立研究者・森田真生

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左から『銀河の片隅で科学夜話』『地球に降り立つ』『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』
左から『銀河の片隅で科学夜話』『地球に降り立つ』『そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい』

 科学の進歩は、人間の遠近の感覚を揺さぶる。たとえば、太陽から降り注ぐニュートリノは、毎秒数兆個のペースで人間の全身を通過している。何億光年も彼方(かなた)で衝突した二つのブラックホールは、光速で伝わる時空の歪(ゆが)み(=重力波)を生み、このかすかな時空のさざ波が、地球を音もなく通過していく。太陽も、ブラックホールも、単に「遠く」にあるのではなく、不気味なほどじかに人間に接触していることを科学は教えてくれる。

 『銀河の片隅で科学夜話』(全卓樹、朝日出版社)は、「遠く」について考え、緻密に想像する理論物理学者の思考が、日常の息づく「近さ」に開いた感性と美しく同居している一冊である。「海辺の永遠」と題された冒頭のエッセーで著者は、1日の長さが1年に0・000017秒ずつ延びていることを指摘している。月が引き起こす満ち潮引き潮によって、「海水と海底との間の摩擦が、地球の回転をごく微弱に減速させる」ことが原因…

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