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余録

英国の歴史家ギボンの名著「ローマ帝国衰亡史」は…

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 英国の歴史家ギボンの名著「ローマ帝国衰亡史」は、2世紀の皇帝アントニヌスの治世を「珍しく歴史に書き残す材料が少ないのが特徴だ」と記す。まあ、ぱっとしない皇帝だったのだろうと誰しもが思う▲だがギボンはそのすぐ後に「歴史とは人類の犯罪、愚行、災難の記録にすぎない」という有名な言葉を続けている。つまり歴史家は先の評価をアントニヌスに対する称賛として述べたのだ(アープ編「世界の名言名句1001」)▲ならば後世の権力者や役人たちが、自分らの「犯罪」「愚行」、もたらした「災難」を歴史家の目から隠蔽(いんぺい)するのに必死になるのも成り行きである。現代の民主主義の政治では、政策決定の記録の保存が不可欠となっているゆえんだ▲「歴史的緊急事態」とはただならぬ響きだが、コロナ禍は公文書管理上の同事態に指定されている。政府は対処記録を保存せねばならぬはずだ。だがこの間、世の注目の的となった政府の専門家会議の議事録が作成されていなかった▲大災害などの体験を国民が共有し、将来の教訓とするための公文書管理の歴史的緊急事態規定である。政府は政策決定の場でない専門家会議は記録作成の対象外というが、同会議の論議の重大さは国民が身をもって学んできた通りだ▲公文書といえば、何か問題が明るみに出るたびに、記録がない、廃棄したという迷路に誘い込むのが得意技の現政権である。ギボンのような辛辣(しんらつ)な歴史家ならば、この成り行きの一切をどう史書に記すだろうか。

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