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世界貿易機関(WTO)のアゼベド事務局長が、任期を1年残して8月末に辞任する。自国第一主義の動きが強まる中での、突然の辞意表明だった。
米中対立が激しさを増す一方、新型コロナウイルスの世界的流行で、医療物資や食料の輸出を制限する国も相次いでいる。
貿易が縮小すれば、経済の効率は悪化し、コロナ後の景気回復の足かせとなる。自由貿易の枠組みを立て直さなければならない。
WTOは貿易や投資のルールを作り、問題が起きれば裁判官として解決する「自由貿易の番人」だ。しかし、加盟国間の利害が衝突して議論がまとまらず、役割を果たせない状態が続いている。
加盟国はまず、次期事務局長の選出を急いでほしい。その上で、貿易紛争の最高裁判所にあたる「上級委員会」の機能回復に最優先で取り組むべきだ。
上級委を巡っては、米国が「WTOのルールを独自に解釈するなど権限を逸脱している」と主張し、裁判官にあたる委員の人選を阻んで機能停止に追い込んだ。
このままでは、自国の利益を優先して貿易を制限するような振る舞いに、歯止めをかけられなくなる。日本のように、海外市場に依存している国への打撃は大きい。
欧州はWTOの紛争解決機能を強化するよう求めている。加盟国は上級委の権限や役割を議論し、合意点を見いだす必要がある。
そもそもWTOのルールは、デジタル化といった経済の変化に追いついていない。新たな課題に対応しなければ、存在意義を失う。
日本政府は昨年、国境をまたいだ電子商取引やデータ流通に関するルールを作るよう呼びかけた。
コロナ禍で、デジタル化が加速しそうだ。議論をまとめられるかどうかは、WTOが求心力を取り戻す上で試金石となる。
近年は、合意が難しい多国間の枠組みより、地域ごとに結ぶ貿易協定が主流だ。ただ、異なるルールが乱立して混乱を招かないためにも、多くの国が議論して国際標準を導き出す場は必要だろう。
貿易の障害を取り除き、経済の回復に貢献すれば、保護主義を封じ込めることにもつながる。WTOの役割を問い直し、有用な組織に再構築する改革を急ぎたい。