「表現の自由」と被害者救済 事業者の社会的責任とは 総務省有識者会議座長・曽我部真裕教授
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会員制交流サイト(SNS)上の誹謗(ひぼう)中傷を巡り、発信者の情報開示のあり方やSNSを運営する事業者の責任について議論が盛り上がっている。「表現の自由」を守りながら被害者救済をどう図るべきなのか。憲法学者であり、総務省の有識者会議「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の座長やSNS事業者でつくる一般社団法人「ソーシャルメディア利用環境整備機構」の共同代表理事も務める曽我部真裕・京都大教授に聞いた。【塩田彩/統合デジタル取材センター】
テレビ番組への論評をむやみに規制すべきではない
――木村花さんの急死を巡り、SNS上の誹謗中傷への規制を強化すべきだという声が強まっています。一連の動きをどのように見ていますか。
◆今回の問題には、いくつかの論点があると思います。①インターネット、SNS上で権利侵害を受けたときの被害救済の仕組みやSNS事業者の社会的責任②リアリティー番組の在り方をはじめとする放送局側の課題③誹謗中傷を受けた人のケア体制④SNS利用者のネットリテラシーの向上――です。
①については現在、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」で、プロバイダー責任制限法に基づく発信者情報開示の仕組みを簡易化できないかという検討がされています。これは今回の問題が起きる前の4月から議論が始まっていました。プロバイダー責任制限法は2001年に制定された法律です。当時は「2ちゃんねる」などのネットの匿名掲示板はありましたが、ツイッターなどの今日よく使われているサービスはまだ存在しませんでした。その後、拡散力のあるこれらのSNSの登場によって、権利侵害の被害が非常に深刻になるケースが出てきました。そこで、被害救済のためにボトルネックとなっている手続上の課題を解決していくことが考えられています。
①に関しては、SNS事業者が投稿の削除要請を受けた時の対応をどう考えるかという問題もあります。また、テクノロジーを使って誹謗中傷の書き込みを防ぐ工夫もできると思います。ツイッターでは自分の投稿にリプライ(返信)できる相手を投稿者側が限定できる仕組みも試行されています。書き込み前に熟慮を促すようなメッセージを表示することなどもできないでしょうか。仕様をコントロールすることで人の振る舞いは変わり得るので、削除やアカウント凍結といった事後的な対応以外にもできることはあると思います。
一方、被害救済の仕組みが整備されたとしても、表現の自由との兼ね合いで、批判的な意見すべてが削除されることにはなりません。
②と③に関する話になりますが、テレビ番組はすべて、それぞれの放送局が内容に公共性があると判断して放送しているはずです。公共性のあるコンテンツに対して論評することは基本的には自由で、むやみに規制されるべきではありません。
ただ、客観的に見れば正当な批判や、それ単体では規制対象にならないような批判であっても、批判された本人からすれば非常に心理的な負担が重くなる場合があり得ます。大量の批判が一斉に寄せられた場合もそうです。その時に本人が適切なケアを受けられるかも重要な課題です。番組出演者の場合は所属事務所や放送局、一般人であれば、専門の相談窓口などでしょうか。発信者情報開示制度があることを周知することも必要でしょう。どうあっても規制できない批判がある以上、被害者をどうケアしていくかについても議論を深めた方がいいと思います。
他方で、今回のような「リアリティー番組」にどのような公共性があるのかという議論や、番組制作過程に問題がなかったのかなどの検証も必要です。
こうした複数の観点から考えなければ全体状況は改善されません。すべてをSNS事業者の問題としてしまうのは、視野が狭い議論になると思います。
発信者情報の開示の簡易化を検討
――総務省有識者会議で検討が進められている発信者情報開示の手続きについて、具体的にどのような点が課題になっていますか。
◆これはネ…
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