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「待ってました!」 寄席も劇場も、そろりそろりと再開の動き 

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フェースシールドを着用して漫才をする宮田陽・昇=東京都台東区の浅草演芸ホールで2020年6月1日、濱田元子撮影
フェースシールドを着用して漫才をする宮田陽・昇=東京都台東区の浅草演芸ホールで2020年6月1日、濱田元子撮影

 「再開初日にお越しいただけるなんて、寄席の決死隊ですね」(桂竹丸)

 「本当にありがたいお客様です。じっと(顔を)覚えて帰りたい」(神田紅)

 「20年ぶりに母校を訪れる感じ」(瀧川鯉津)

 寄席の灯が2カ月ぶりにともった6月1日。演芸史に残る日に、東京の浅草演芸ホールの高座に上がった芸人さんの言葉にも喜びと感慨がにじみ出た。

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、密閉・密集・密接のまさに「3密」として真っ先に自粛要請の対象になった劇場や演芸場。寄席は4月4日から灯が消えた。それから約2カ月。政府の緊急事態宣言が解除され、東京都の休業要請がステップ2に移行したこの日、東京都内4軒の寄席のうち、まずは新宿末広亭で落語協会、浅草演芸ホールで落語芸術協会の興行が、それぞれ昼の部からスタートした。

感染予防対策で340席の座席を100席に制限

 とはいえ、「全国興行生活衛生同業組合連合会」が発表したガイドラインに沿って感染予防対策が講じられ、通常通りとはいかない。

 十分な座席の間隔確保が必要なため、浅草演芸ホールでは座席の左右を開けて、かつ前後は1列飛ばしの座席配置にして、「使用禁止」のテープが張り巡らされた。340席あるが、今は100席に制限している。

 楽屋のルールもコロナ仕様だ。

▽楽屋入りは出番の30分前

▽終わったらすぐに帰る

▽楽屋に入る前に検温

▽楽屋ではマスク着用

▽師匠に出すお茶は湯飲み茶わんではなく紙コップ

▽換気のため中入り休憩は昼夜それぞれ2回ずつ――など。

 密を避けるため、前座や三味線のお師匠さんの数も減らしたという。

 「芸人さんから早く人前で噺(はなし)をしたいという気持ちが届いていた。芸人さんたちの声に応えられるのがうれしい。興行的には厳しいが、始められることを喜びとしたい」と席亭の松倉由幸さん。

「待ってました!」「私もこの日を待ってました」

 浅草の昼は午前11時40分開演。一番乗りの男性は朝6時から並んでいたという。開口一番は前座の柳亭楽ぼうの「たらちね」。まだ観客は15人ほどしかいないが、拍手がひときわ大きく響く。

 テレビカメラも多く入り、なんとなく緊張感のあった客席だが、東生亭世楽の「おしくら」あたりから、ようやく温まってきた感じに。対面で会話をする漫才は感染リスクに気を使うところだ。カントリーズの2人は、ソーシャルディスタンス(社会的距離)で約1・5メートル開けて立つのが、なかなか新鮮な光景。

 講談の神田紅が上がると「待ってました!」の声。「私もこの日を待ってました」。「お富さん」を一節やって「お富与三郎」へ。「いやさお富」からの芝居がかりの七五調のセリフの調子がいい。

 三遊亭圓馬はてらいのない「壺算」。だまされた瀬戸物屋が次第にあせって混乱していく心情をリアルに。混乱の極みとなる「3円もお付けします」のサゲまで、心地よく聴かせた。ここで1回目の中入り。ナオユキ(漫談)はぼそぼそとした口調で世相をシュールに斬る。紙切りの林家今丸は、やっぱり客席からは「アマビエ」のお題。

 黄緑ベースの派手な着物で古今亭寿輔。「お客さんに聴いてもらってんのか、椅子に聴かせているのか分からない」とシニカルなぼやき。ここで2度目の中入りに。

 期待の若手真打ち、柳亭小痴楽が登場すると、パッと華やぐ。「ずっと『自粛』と言えなくて、『謹慎期間』と言っていた。やっと『自粛』という言葉を覚えたところなのに……」とやんちゃぶりは相変わらず。「多少リモート落語で稼がせていただきましたが、一番困っているのは泥棒でしょうね(客席に笑い)。みんな家にいるから空き巣ができない」と振って、「両泥」へ。

 間抜けな素人の泥棒と、ベテランの泥棒の掛け合いがポンポンと小気味よく、いかにも落語らしい噺が楽しい。間抜けな泥棒の人なつっこいキャラクター造形も可愛らしい。

 漫才の宮田陽・昇は、陽がフェースシールドを着用し登場。まさかの出オチで笑いを取るのは、ウイズコロナ時代の新機軸か。ネタも「自粛警察」や「密」を巧みに笑いに昇華した。笑福亭鶴光は「荒茶」。ボンボンブラザースは、いつも…

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