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常夏通信

その47 国会の立法不作為「違憲」の可能性 大阪空襲国賠訴訟・高裁判決の成果

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大阪へ雨のように降り注ぐ焼夷弾=1945年6月15日、毎日新聞大阪本社から撮影
大阪へ雨のように降り注ぐ焼夷弾=1945年6月15日、毎日新聞大阪本社から撮影

 大阪空襲国家賠償訴訟・原告団の23人は2011年、大阪地裁での敗訴判決を受けて高裁に控訴した。

 東京大空襲国賠訴訟がそうであるように、大阪空襲の原告団も国が戦後補償において、元軍人・軍属らと民間人をいかに差別してきたかを具体的に示してきた。たとえば、空襲で左足の膝から下を奪われた安野輝子さん(81)は、障がい等級2級として年間約80万円の支給を受ける。一方、兵役12年以上の軍人が同じようなけがをした場合、年間500万円以上の軍人恩給がある。たった一年、たった一人でこれだけの差別があるのだ。さらに注意すべきは、安野さんへの支給は戦争被害者だから支給されるのではなく、他の条件で同じ障がいのある人にも支給されるものだ。つまり、戦争被害であるがゆえの補償はされていない。

 その結果、元軍人・軍属らへの補償と援護は累計60兆円、民間人空襲被害者にはゼロ円、ということになるのだ。

 原告たちが「我々は国から何も受けていない」と主張する理由は、ここにもある。一年中「8月ジャーナリズム」=戦争報道をしている常夏記者こと私もそう思う。

 1審判決から半年後の12年6月11日、控訴審が始まった。原告代表として安野さんが意見陳述した。

 「空襲で障がいを負ったり、肉親を奪われたりした者にとっては、我慢しなさいという国の姿勢そのものが乱暴なものであり、尊厳を傷つけるものです。裁判を通じて、国に戦争損害受忍論を撤回させ、すべての民間の戦災被害者に補償する国にかえさせるきっかけを作っていきたい。それが子や孫に戦争をしない平和な国を残すことにつながると思うのです」

 前回見たように、大阪地裁の判決では、安野さんの言う「戦争損害受忍論」(本連載では「戦争被害受忍論」)の文言はなかった。東京大空襲国賠訴訟で、原告敗訴を言い渡した東京地裁の判決文も同様である。

 とはいえ、民間人に相応の補償をしない限り、国や司法が主張してきた受忍論は生きている、とも言える。

「自分の身に置き換えて考えてください」

 安野さんは、涙を浮かべながら言葉を継いだ。

 「裁判長。ご自身の身に置き換えて考えてください」

 東京、大阪空襲。あるいはシベリア抑留。沖縄戦と南洋諸島の戦いで被害を受けた民間人……。私はたくさんの戦後補償裁判を取材し、多くの原告、遺族に話を聞いてきた。多くの人たちが、安野さんと同じ気持ちでいた。「私たちと同じように戦争でけがをしたらどうか。大切な人、財産を失ったらどうか。孤児や障がい者になり、苦労に苦労を重ねて長く生きてきたらどうか。国から一言の謝罪も、1円の補償も受けなかったらどうか。裁判長、自分が、あるいは自分の親や子どもがそうだったら、どんな判決文を書くのですか……」、という訴えだ。

 安野さんの訴えを聞いた坂本倫城裁判長の心に響いたのどうかは分からない。「次回の弁論を最終弁論にします」と告げた。「たった2回の審議で結審……」。原告側は驚いた。

 その2回目の審議は3カ月後の9月24日に開かれ、5人の空襲被害者が最後の意見陳述をした。裁判を記録した「大阪空襲訴訟は何を残したのか――伝えたい、次世代に」(矢野宏、大前治著・せせらぎ出版)で振り返ってみよう。

 陳述した奴井利一郎さんは3歳の時、1945年7月10日の堺大空襲で母と姉2人を失った。自身も大けがをした。大阪地裁の、補償を受けた元軍人・軍属らと受けていない原告との差異は不合理とは言えない、という判決について「どういうことですか。旧軍・軍属にはこれまで50兆円の補償があるのに、民間の空襲被害者はゼロ。情けない国です。原告は身体に傷を負っている。それが自分の親やったらどうですか」。最後の問いかけは、裁判長にしたものだ。

 渡辺美智子さんは、15歳の時、45年6月1日の第2次大阪大空襲に遭った。学徒動員で働いていた工場から戻ると、母と弟は亡くなっていた。自宅の防空壕(ごう)で黒こげになっていた。「23人の原告のうち、すでに3人が亡くなっていま…

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