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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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 「きみたちは/甲子園に一イニングの貸しがある/そして/青空と太陽の貸しもある」。作詞家・詩人の阿久悠(あくゆう)さんがスポーツニッポン連載の「甲子園の詩」にこう記したのは、1988年8月11日のことだった▲「きみたち」とは岩手代表・県立高田高チームである。前の日の兵庫代表・滝川第二高との試合は、八回裏の滝川二の攻撃中に大雨でコールドゲームとなる。3対9。高田は九回の攻撃を残して56年ぶりの降雨コールド負けとなった▲嘆くべき「不運」ではない、胸を張っての「貸し」だよ、という阿久さんのエールであろう。この詩は同校で石碑に刻まれ、3・11の津波にも残った。そして今年、全国の高校球児がわかち合うことになった「甲子園への貸し」である▲1イニングどころか、甲子園にかけた夢のすべてをコロナ禍に奪われた今季の球児たちである。その「甲子園への貸し」を、わずかなりとも返せればいい。春のセンバツ出場校による交流試合が8月の甲子園で行われることになった▲日程は同10日から休みをはさんで6日間、出場32校が各1試合行う交流戦である。開会式はリモート方式も考慮中で、今のところ無観客試合の予定という。だが今後の感染状況次第で、学校関係者の入場については検討するそうだ▲「でも やっぱり/甲子園はそこにあった」。雨と泥の中のコールド負けの無念や自負をうたう先の阿久さんの詩にはこんな一節もあった。すべての球児の胸に刻まれる2020年夏の甲子園を見たい。

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