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余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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初の衆院選が行われた1890年…

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 初の衆院選が行われた1890(明治23)年、ある地方新聞に「国会議員周(しゅう)旋(せん)会社」という広告記事が載った。国会議員に選挙民の買収をあっせんする会社だというので驚くが、もちろん冗談である▲1票10円以上なら押印つきの請合書(うけあいしょ)を出し、5円の請合書は押印なし、3円では書面なしの半請け合い。大宴会ならば「1票投じるよ」のかけ声、菓子折りで「1票できた」のうわさを進呈する。1円は今の7500円程度だそうな▲季武嘉也(すえたけ・よしや)さんの「選挙違反の歴史」に紹介されていた話である。国政選挙の始まった年にすでに票の買収が風刺記事になっていたのだから、その後の選挙史の多難がしのばれる。だが近年では、これほど身もふたもない買収話は珍しい▲前法相の河井克行(かわい・かつゆき)衆院議員と妻の案里(あんり)参院議員が、昨年の参院選での公職選挙法違反の疑いで東京地検に逮捕された。地元県議や首長ら100人近くに票のとりまとめを依頼し、総額約2570万円を配ったという買収の容疑である▲自民党が候補2人を立てた昨年の参院広島選挙区では、現職落選の一方で首相官邸が擁立を主導したとされる案里容疑者が初当選した。党本部から夫妻の陣営に1億5000万円という破格の選挙資金が渡されていたというのである▲巨額資金でライバルを蹴落とし、夫はよりによって法相に抜てきされた夫妻だった。憲政史上初とみられる国会議員夫妻の逮捕という運命の暗転だが、その転落の落差の大きさにはより大きな力がかかわっていよう。

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