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芸能人の逮捕で作品公開の停止は当たり前か? 自粛の背景にあるものを考える 永田夏来さんインタビュー

宮台真司さん、かがりはるきさんと共に「音楽が聴けなくなる日」を執筆した兵庫教育大大学院准教授の永田夏来さん=永田さん提供

 ミュージシャンや芸能人が逮捕されると、「必ず」といっていいほど、CDが出荷停止・回収され、出演作の公開や放送が中止される。俳優でミュージシャンのピエール瀧さん(53)が逮捕された際、所属するテクノユニット「電気グルーヴ」の音楽も一斉に聴けなくなった。音源の配信やCDの出荷が再開されたのは、瀧さんの逮捕から約1年3カ月がたった6月19日だ。

 日本では、このような自主規制が当たり前のように行われているが、それは誰のために、なぜ行われるのか。この事態を、「音楽が聴けなくなる日」(集英社)にまとめた兵庫教育大大学院准教授、永田夏来さん(47)は「こうしたことは果たして当たり前のことなのか」と問いかける。なぜ、過剰な自粛は生まれるのか。話を聞いた。【聞き手・平林由梨】

 2019年3月12日深夜、ピエール瀧さんが麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。翌日、瀧さんが所属していたソニー・ミュージックレーベルズは、既に発売していた電気グルーヴの全ての音源、映像の出荷停止と在庫回収、サブスクリプションサービスへの配信停止を発表した。

 ――この事態をどのように受け止めましたか。

 ◆ソニーの発表に、「まさか、一斉に聴けなくなることはないだろう」と思っていました。ところが発表から2日後、音楽配信サービスのSpotifyを更新するたびに、電気グルーヴのアルバム中から数曲ずつ、消えていくんです。阿鼻叫喚(あびきょうかん)です。そして、その日のうちに、ついに一曲も聴けなくなりました。私はほぼ全てのCDが手元にありますが、出荷停止と在庫回収によってCDは高額転売される異常事態も起こりました。

 ――昔からファンだったのですか。

 ◆1980年代に活動していた電気グルーヴの前身バンド「人生」の頃から知っています。本格的にハマったのは91年に発売されたセカンドアルバム「UFO」で。彼らが作る音楽のクオリティーの高さと、他にないサウンド作りに魅了されました。ライブMCやラジオでのおしゃべり、雑誌の企画も面白い。これまで足を運んだライブは100回を超えます。

 ――電気グルーヴが所属するソニー・ミュージックレーベルズに対し、全ての音源・映像の出荷停止、在庫回収、配信停止の撤回を求める署名活動を展開し、6万4606人の賛同を集めました。

 ◆ありがたいことに、注目を集め、署名は79カ国から集まりました。私がファンだから、「電気グルーヴだけ大目に見てほしい」という気持ちで始めたわけではありません。これをきっかけに、企業側のコンプライアンス(法令順守)として近年一般化した自粛ムードに一石を投じたかったのです。

 ――本書を刊行したのはなぜですか。

 ◆作品の回収や販売停止は、少なくないコストをかけて、企業が自らの収入を絶つという、経済合理性では測れない行為です。

 署名活動を一過性のもので終わらせてしまうのではなく、電気グルーヴの事例を下敷きに、こうした「当たり前」がなぜ成立するのか。多くの人と共に考えたかった。一緒に署名活動を始めた音楽研究家のかがりはるきさんと、賛同人になってくれた社会学者の宮台真司さんに声をかけ、本書をまとめました。

 ――永田さんの専門は家族社会学です。

 ◆そうです。女性もまた、人生の選択を巡る、さまざまな場面で自主規制を余儀なくされています。「今時の母親はだらしない」「こんなこともできないなんて、甘えている」といったバッシングを恐れて、結婚や妊娠、出産そのものや、仕事との両立について自粛しているのではないでしょうか。

 芸能人が不祥事を起こしたら作品は回収する、母親はこうすることが当たり前――。社会を覆う閉塞(へいそく)感の一端を担う、このような暗黙の「常識」の正体について考える姿勢は共通しています。

 ――自粛ムードの背景をどう見ますか。

 ◆平成に入ってから三菱自動車のリコール隠しや、牛肉偽装事件などをきっかけに、消費者保護の思想が広がりました。企業の説明責任がより重視されるようになったことは大きいでしょう。

 昨今のクレームは、ファクスや電話で直接企業に伝わるというよりも、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の浸透により社会の中に一気に拡散していきます。企業に対するマイナスイメージが広がる前に、早々に自粛を決めるケースが増えています。

 ――「本人がまた薬物に手を出さないためにもお金が入らないようにした方がよい」「厳しい対応を取るのは日本社会の良さだ」という意見もあります。これが自粛の根拠なのでしょうか。

 ◆薬物の使用者を厳しく罰するのではなく、支援につなげていくことが回復への近道だとする「ハーム・リダクション」の考え方は、世界的にも効果を上げています。自主規制はこの考え方に逆行する対応です。

 ソニー・ミュージックレーベルズの場合、電気グルーヴに続い…

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平林由梨

2007年入社。初任地は浜松支局。地方部、世論調査室などを経て、現在は東京本社学芸部。

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