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コロナ禍と一極集中 「脱東京」今度こそ推進を

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 新型コロナウイルスが社会や経済に大きな影響を与えている。人と経済が東京に過度に集中するという、日本が抱える弱点が改めて浮き彫りになっている。

 先月末、都市部から地方への移住に関心を持つ人たちの相談に自治体が応じるイベントがオンライン方式で開かれた。急な開催だったが、若者を中心に約170人が参加し、盛況だった。

 山口県周防大島町で地域おこしに取り組む泉谷勝敏さんが企画した。「これまで移住に興味を持っていた人が、新型コロナを契機に具体的に検討し始めているようです」と手応えを語る。

 日本の人口が減少する中でも、東京都の人口は増え続け、ついに1400万人に達した。東京都と神奈川、千葉、埼玉3県の東京圏だけで人口や国内総生産(GDP)の約3割を占める。

若者に意識変化の兆し

 このいびつな構造が、コロナ対策を進めるうえでも足かせになっている。

 たとえば満員電車だ。テレワークが広がっても、経済活動が活発になるほど通勤客は増える。繁華街の「3密」対策も難しい。日本の感染状況は結局のところ、東京の動向次第である。

 東京一極集中の是正はこれまでも叫ばれてきた。だが、いつもかけ声倒れに終わっている。

 安倍政権が掲げる地方創生もそうだ。2015年度から5カ年で東京圏と他地方圏の人口の流出入を均衡させることが目標だった。

 ところが東京圏への転入超過が昨年約15万人に及ぶなど、集中にはむしろ拍車がかかっている。

 一極集中は防災リスクも伴う。首都直下地震は30年以内に70%の確率で起きると予測される。最悪で死者2万3000人、被害額は約95兆円に上る。

 人口減少も加速させる。日本全体の出生率が1・36と目標の1・8を大きく下回る中、東京都の出生率は1・15と全国最低だ。首都に若者が集まるほど、人口減少が進む負のスパイラルが生じる。

 地方創生の5年間、東京圏流入の主力となったのは若い世代だ。雇用や便利さに恵まれ、地方に暮らすよりも魅力的だと考える人が多かったためだろう。

 だが、コロナ禍は、そんな価値観を揺るがしている。

 教育を例に取ると、都内の小中学校の多くは3月から5月までほとんど授業ができず、今月も分散登校などを強いられた。

 これに対し、感染者ゼロの岩手県では、ほとんどの小中学校が4月から授業を再開している。

 大都市での感染封じ込めは難しい。地方の学校を出て東京に進学や就職をするのであれば当面、感染リスクを考慮せざるを得ない。雇用やバイトの需要も不透明だ。

 若者の最近の地方志向は漠然としたあこがれでなく、東京と地方暮らしのメリット、デメリットを冷静に比較し始めた表れだろう。

 国や経済界はこうした意識の変化を真剣に後押しすべきだ。

多様なアプローチ必要

 地方で若者の雇用をどう創出するかが鍵を握る。高度成長期のような地域振興はもちろん通用しない。地域やライフスタイルの多様さを基本に据える必要がある。

 新型コロナをきっかけに、テレワークが浸透し始めたのは大きな変化だ。テレワークと農業を両立させながら、地方暮らしを維持できるような暮らしかたが注目されている。東京にいなくても勤務可能な環境の整備が欠かせない。

 地方創生で目立ったインバウンド偏重も再考を迫られる。

 外国人観光客の増減は、外交関係や感染症など外的要因に大きく左右される。コロナは、観光一辺倒の危うさを浮き彫りにした。「地産地消」型の地域おこしなどをもっと尊重すべきだろう。

 人口減少が進む中、地方の市町村同士が広域に連携したり、市街地をコンパクト化したりしていく必要性はこれからも変わらない。

 ただし、今回、コロナ対策を通じて地方拠点病院の重要さが再認識された。政府は公立病院の再編を強引に進めようとしている。安心や生活基盤に関わる機能をいたずらに縮小してはならない。

 明治以来、日本の国づくりは東京への機能集約とともにあった。短期間で変えることは難しい。

 だが、だからといって放置することはできない。東京都知事選の論戦だけで終わらせてはならない。「脱東京」を今度こそ、政治のメインテーマに据える時だ。

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