毎日新聞
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3年前に公開された米映画「ハクソー・リッジ」は沖縄戦で「ありったけの地獄を一つに集めた」といわれた前田高地の戦闘が舞台となっていた。洞窟陣地の日本兵に米兵も白兵戦を挑んだ凄絶(せいぜつ)な激戦であった▲「おそろしさも、苦しさも、悲しさも感じうる人間感情の極限であった」。これは潜伏した洞窟が爆雷攻撃され、瀕死(ひんし)の兵が「お母さん!」と叫んだ時の回想である。書き手は外間守善(ほかま・しゅぜん)さん、後に沖縄学の第一人者となったその人だ▲外間さんは師範学校在学中に陸軍に動員され、前田高地で負傷や生き埋めも経験した。死体の浮いた泥水もすすった。妹は撃沈された学童疎開船・対馬(つしま)丸(まる)の犠牲となり、県庁職員の兄は沖縄戦の末期に自決したことでも知られている▲山中で抗戦した外間さんが、住民の犠牲など沖縄戦の全容を知るのは終戦後に投降してからだった。体に食い込んだ弾片や石は手術で取り出されたものもあるが、その後10年の間、皮膚からポロリポロリと“排出”され続けたという▲戦後、学究生活に入った外間さんは沖縄学の先達が用いた「島惑い(シママディー)」という言葉に注目した。日本本土の捨て石とされて壊滅し、米軍施政下に放置された沖縄の故郷喪失感、未来を見通せぬ心の迷いが自らの胸にも迫っていたからだ▲古代歌謡「おもろさうし」など沖縄文化研究に生涯をささげた外間さんが亡くなり8年になる。沖縄戦から75年とはそういう歳月だ。だが故郷は今も「島惑い」を強いる大きな力から解き放たれてはいない。
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