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難病の小4少女に文学賞 「2平方メートルの世界」に小さな発見、生きる決意

大賞の盾を手に笑顔を見せる前田海音さん=札幌市中央区で2020年6月11日午後3時37分、菊地美彩撮影

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 2メートル×1メートルのベッドを囲む病室の小さな空間が私の世界のすべてだった――。神経の難病で入院を繰り返している札幌市伏見小4年の前田海音(みおん)さん(10)が闘病体験をつづった作品「二平方メートルの世界で」が、今春審査が行われた「第11回子どもノンフィクション文学賞」(北九州市主催)の小学生の部大賞を受賞した。執筆のきっかけは、ベッドで横になっている時の「思いがけない発見」だった。【菊地美彩】

 ある日、病床で体の向きを変えた時だった。ベッドにまたがるテーブルの裏側に、多数の書き込みがあるのに気づいた。

 「ようやく退院できるよ! 長かった!」

 「→おめでとう!」

 「ママにめいわくかけちゃってる。ごめんね」

 「けんこうになりたいね」

 同じベッドを使った子が、時間を超えて言葉を刻み、励まし合っていたのだ。

 「これを作文にして誰かに伝えなければ、私の生まれてきた意味はない」。前田さんは、決意した。

前田海音さんが見つけたテーブル裏のメッセージ=前田さん提供

 3歳の時に国の指定難病の「限局性皮質異形成」を発症した。脳の大脳皮質と呼ばれる部位の異常で発作などが起き、睡眠中に呼吸や心臓が止まることもある。毎日の服薬と毎月の通院、年3~4回の入院治療が必要だ。

 毎日の服薬は時間が決められ、疲れたらそのまま寝る、ということができない。「起こされて、飲まされて、また寝るの」。前田さんは記者に切なげに説明した。

 作品では率直な心情を吐露している。病棟にいるたくさんの子どもを見て「どうして私だけ、とは思わない」。支えてくれる家族に「ごめんなさい。と思う」と気遣う。

 一方で、学校で友達が何をしているか考えると「なげやりな私になってしまう」、家族もみんな「本当の気持ちを言ってしまったら、きっとお互い傷つく」と揺れる気持ちも記した。ラストは「来年、私は長期入院をひかえている。二平方メートルの世界でまた私らしく生きていく」と力強く結んだ。

 病気の影響で右手の握力が弱く、原稿用紙10枚分を書き上げるのに1週間かかった。母の幸子さん(44)は「学校での勉強と異なり、自分のペースで書けたのも良かったのかもしれません」と振り返る。

 小中学生を対象にした同文学賞は、2009年に当時の北九州市立文学館長だった直木賞作家の佐木隆三さん(15年没)らの発案で創設。現在は、児童文学作家の那須正幹さん▽ノンフィクションライターの最相葉月さん▽俳優で絵本作家のリリー・フランキーさん――の3人が審査員を務める。

 前田さんの大賞は満場一致。最相さんは「他者に対する想像力が深く、病に支配されない自由な精神について考えさせられた」と講評した。

 前田さんは、届いた盾を手に「受賞できてうれしいけど少し恥ずかしいかな」とはにかんだ。将来の夢は「保育士さんとトリマーさんとパイロット」。夢を膨らませる。

 受賞作は同文学館のウェブサイトで閲覧できる。

子どもの難病

 国は長期にわたり高額な治療費がかかる子どもの病気を指定難病や小児慢性特定疾病に指定し、医療費助成などをしている。2017年度の小児慢性特定疾病の医療費受給登録は全国約11万人で、北海道内は約4400人。少子化や医療の進歩に伴い、15歳未満の入院患者数は減少傾向にあるが、日常生活で人工呼吸器などの医療を要する「医療的ケア児」は05年からの10年間でほぼ倍増している。

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