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「余った時間分けてください」チラシから広がった支援 重度障害者と宇都宮大生400人の「日記」

ボランティア日記を前にほほ笑む箱石さん=宇都宮市の箱石さん宅で2020年6月20日午後1時52分、渡辺佳奈子撮影

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 脳性まひによる重度障害がある宇都宮市の箱石充子さん(80)の自宅には、「ボランティア日記」と呼ばれる10冊のノートが置かれている。32年前、障害者の現状を知ってほしいと周囲の反対を押し切って始めた1人暮らしは困難の連続だった。「余った時間を少しだけ分けてください」。箱石さんが作ったチラシを見て協力を申し出たのは、一人の宇都宮大生。支援の輪はその後、同大の学生らへと広がった。障害者と延べ400人のボランティアの交流をつづった日記は今、出版に向け準備が進む。

 「みんな何でもかんでも思ったことを自由に書いてね。このノートを筆頭に数え切れないくらいの雑記帳が生まれるといいね」。26年前の1994年6月9日に書かれたボランティア日記の最初のページには、箱石さんから学生らへのメッセージが記されている。

 栃木県那珂川町で育った箱石さんは、生後1カ月のときの高熱が原因で脳性まひとなり、全身に重い障害がある。1人暮らしをしたいと思ったのは、子どものころから障害者に向けられる視線に違和感を抱き続けてきたからだ。当時、障害児の多くは「就学免除・猶予」の対象とされたため、箱石さんも学校に通ったことがない。「同年代の子供には障害をからかわれ、大人からは『かわいそうに』と見られる。どうしていじめられるの。どうして学校に行けないのという疑問がずっと心の中にあった」

 実家を離れ、地域の中で暮らすことで障害者の現状を知ってもらうことができるのではないか。そう考え、母親に相談したが「体が自由に動かないのに、災害が起きたらどうするの」と強く反対された。「失敗するかもしれないけど、後悔したくはない」。3カ月かけ説得を続けた結果、母親は「いつでも戻っておいで」と送り出してくれた。母親は、話すことが得意ではない娘のために借金をして買ったタイプライターを持たせてくれた。

 18歳で家を出た後、栃木県内や千葉県の福祉施設を転々としながら、編み物や刺しゅうの仕事で資金をためた。48歳になった88年、宇都宮市で念願の1人暮らしを始めた。

箱石さんの元を訪れるボランティアがつづった10冊の日記帳=宇都宮市で2020年6月20日午後3時38分、渡辺佳奈子撮影

 だが1人では入浴もできず、料理も作れない。箱石さんは近所にあった宇都宮大の学生に助けを求めることにした。母親からもらったタイプライターで「余った時間を少しだけ私に分けてください」と打ち込んだチラシを作り、同大の正門前で車いすに乗って配り始めた。

 最初に声を掛けたのは、当時同大1年の横山千登勢さん(50)=水戸市。箱石さんから「引っ越してきたばかりで、お店がどこにあるのかも分からないの。ビールが飲みたいんだけど」と頼まれ、ビールを家まで届けた。横山さんは「私も茨城から引っ越してきたばかりで、出会いを大切にしようと思った。年は離れているけど、すごく気が合った」と振り返る。

 その後、横山さんが入った手話サークルの仲間も、箱石さんの家を訪ねるようになった。いつの間にか、箱石さんの家のカレンダーは、ボランティアに来る学生の名前で埋まるようになった。

 ボランティア日記が始まったのは94年。横山さんの手話サークルの後輩、伊藤陽子さん(48)=栃木県壬生町=が発案した。きんぴらや肉じゃがの作り方を箱石さんから教わったという伊藤さんは「学校では学べないことをたくさん教わった。宿帳のような感じで、みんなが共有できる場を作りたかった」と話す。

 介護を勉強する学生が箱石さんに教わりながら入浴介助をしたことや、箱石さんと一緒に自分たちのテーマソングを考えたことなど、ボランティアたちがそれぞれ交流の様子を書き留めた。ボランティアの学生が卒業するときには、箱石さんは「障害者はどこにでもいる。私を助けてくれたように、他の人の力にもなってください」と送り出してきた。

 箱石さんの今の目標は、ボランティア日記を本にまとめ出版することだ。3年前から通う同大4年の宮坂真耶さん(21)の提案で、インターネット上で資金を募るクラウドファンディング(CF)を始めた。箱石さんは「みんなに支えてもらったから、頑張ることができた。ボランティアと過ごした日々を形に残したい」と話す。

 寄付は、CFサイト「キャンプファイヤー」(https://camp-fire.jp/projects/view/253103)で募っている。70万円が目標。7月15日まで。【渡辺佳奈子】

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