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NHKは何を間違ったのか~米黒人差別の本質

怒りの根源「黒人の命は20ドルの価値しかないのか?」 藤永康政日本女子大教授に聞く

「息ができない」と書かれたマスクを着けて、抗議活動に参加する男性=米西部ロサンゼルスで6月23日、AP

 「黒人の命は20ドルの価値しかないのでしょうか?」。白人警官に殺されたジョージ・フロイドさんの弟は米議会で訴えた。フロイドさんの拘束理由が20ドル(約2140円)の偽紙幣を使った疑いだったからだ。警察の暴力と人種格差はどれだけひどいのか。米国黒人の歴史を研究する藤永康政・日本女子大教授(53)に聞いた。【國枝すみれ/統合デジタル取材センター】

 ――藤永教授もNHKに抗議の要望書を送った呼びかけ人の一人です。NHKのアニメ動画と番組内容はどこが問題だったのでしょうか。

 ◆抗議デモの根源にあるのは、警官の暴力で黒人が死んだことへの怒りです。NHKの番組は「不満の爆発で暴れている」と捉えており、本質を取り違えています。

 5月25日に中西部ミネソタ州ミネアポリスで、白人警官は「息ができない」と訴えるフロイドさんの首を8分46秒間も膝で押さえつけ、窒息死させました。「20ドルの偽札を使った罰は命で償うべきものなのか? 黒人の命は20ドルの価値しかないのか?」。デモはそう訴えているのです。

 2014年にニューヨーク州で警官に首を絞められて「息ができない」と訴えながら死亡したエリック・ガーナーさんは、1ドル25セント(約130円)の非課税たばこを路上で違法に売っただけでした。今回の抗議デモのさなかにも、南部ジョージア州アトランタで黒人が警察官に射殺されました。酔ってファストフード店の駐車場に止めた自分の車の中で寝ていたら、警察に通報され、逮捕されそうになって抵抗し、射殺されたのです。

 (黒人差別反対運動である)「BLACK LIVES MATTER(BLM、黒人の命は大事だ)」を始めた人権活動家のアリシア・ガルザさんが運動を始めたきっかけも、夜にコンビニに買い物に行って帰る途中だったトレイボン・マーティンさん(17)を殺害した自警団の男が、無罪になったことです。堪忍袋の緒が切れたのです。

 ――黒人と白人では、どのくらい警官の対応が違うのでしょうか。

 ◆警察の暴力を記録する「MAPPING POLICE VIOLENCE」のウェブサイトによると、2019年に警察官に殺された市民1098人のうち、白人が37%にあたる406人、黒人が24%にあたる259人です。白人が米国の人口に占める割合は約60%、黒人は13%ですから、黒人は白人に比べて極めて高い比率で殺されている。警察捜査は、確実に肌の色に基づいているのです。

 問題は警察だけではありません。2009年、黒人のハーバード大教授が出張から帰ってきて自宅の玄関ドアが壊れていたので、タクシー運転手と一緒に押し開いていたところ、近所の人に通報され、自宅で逮捕された例もあります。いかつい体格やギャングのような格好をしていなくても、黒い肌が周囲の人から「脅威」とみなされるのです。

 ――黒人は刑務所にも高い比率で収監されていますね。

 ◆刑務所に収容される成人人口(仮釈放を含む)は1980年代から膨れ上がり、2006年にピークに達しました。連邦司法統計局によると、2018年時点で約1465万人。人口10万人あたり刑務所に入っている人数は、黒人が1501人、白人268人、ヒスパニック797人です。

 ――なぜそこまで大きな差が生じたのですか?

 ◆1968年に包括犯罪法ができ、本来は州政府や地方自治体の管轄である犯罪取り締まりや治安維持に、連邦政府が大きな役割を果たすようになりました。その一方で、連邦政府の社会福祉事業は縮小し、州政府の社会福祉予算は白人の住む郊外に偏ることになりました。白人の非行に対してはカウンセラーが対応するのに、黒人は刑務所送りになるようになったのです。

 麻薬依存者はかつてはカウンセリングを受けることができました。生徒同士のけんかは先生が罰した。現在、貧困地区の学校ではスクールカウンセラーの代わりに警察官が常駐します。生徒がけんかしてケガをしたら傷害容疑で逮捕される。黒人には国家の暴力が向けられるのです。

 ――マリフアナ使用率は白人と黒人でほとんど変わらないのに、マリフアナ所持で逮捕される率は黒人が3・73倍というデータもあります。

 ◆それだけではありません。クラックなど黒人の使う単価の安いドラッグは、白人が使う単価が高いコカインやマリフアナなどに比べて、所持する量がずっと少なくても刑罰を…

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國枝すみれ

1991年入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、西部本社福岡総局で警察担当記者、ロサンゼルス支局、メキシコ支局、ニューヨーク特派員を経て、2019年10月から統合デジタル取材センター。05年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

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