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余録

巨大な前輪の上にサドルがある昔の自転車を見ると…

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 巨大な前輪の上にサドルがある昔の自転車を見ると、よく乗れたものだと思う。自転車の普及は1880年代に前後輪同サイズ、後輪チェーン駆動というその名も「安全型自転車」が英国で作られたおかげという▲夏目漱石(なつめそうせき)がロンドンで自転車の運転に挑んで四苦八苦(しくはっく)したのは1902年のことだった。年代から、もちろん自転車は「安全型」だったろう。だが、その公道での運転たるや、いくら初心者とはいえ「安全」とはほど遠かったようだ▲急な坂を下り、女学生の列をかすめて塀にぶつかる。ハンドルを握りしめて急転回し、後続の自転車を転倒させる。鉄道馬車と荷車との間をすり抜けようとして落車する。「大落五度小落はその数を知らず」のサイクルライフだった▲通勤や宅配サービスなど、コロナ禍により急増した自転車利用である。だが、その危険な運転による事故やトラブルも目立つことになった。おりしも今月末から自転車による進路妨害などの「あおり運転」も摘発の対象になるという▲具体的には急な進路変更、逆走、幅寄せ、不要な急減速などによる「妨害運転」のことで、漱石の急転回も摘発されかねない。近年は自転車の「ながらスマホ」事故も絶えず、自転車の危ない運転に対する視線は厳しさを増している▲漱石の「自転車日記」は戯文調のエッセーだけに大分話を盛っていようが、自転車普及期のロンドンの空気はうかがえる。ウィズコロナの自転車新時代も、まずは「安全型マナー」の普及が前提である。

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