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都知事選を見に行く

コロナ禍が収束しない中で、東京都知事選がスタートしました。感染の恐れや経済の落ち込みなど、都民の不安や苦しみは続いています。有権者の声を受け止め、明るい未来を築く候補は一体誰でしょうか。記者たちが主な候補の訴えを聞き、現場で見て感じたものをリポートします。

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「首相になる」じゃなかったの? 演説のれいわ山本氏を直撃、見えた戦略

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演説後に記者団の取材に応じる山本太郎氏=東京都新宿区で2020年6月18日午前11時2分、古川宗撮影
演説後に記者団の取材に応じる山本太郎氏=東京都新宿区で2020年6月18日午前11時2分、古川宗撮影

 任期満了に伴う都知事選としては9年ぶりで、しかも立候補者は過去最多の22人。なのに、今ひとつ盛り上がりに欠けると感じるのは私だけではないだろう。でも、もしかしたらこの人なら、この冷めた空気を熱くしてくれるかもしれない。れいわ新選組代表で元参院議員の山本太郎氏(45)。「空気は読まない」と自認する山本氏が選挙戦の空気を変え、「れいわ旋風」を再び巻き起こすのか。【古川宗/統合デジタル取材センター】

参院選後、活動に陰り?

 れいわは、昨年の参院選で、比例代表の特定枠で重度障害者の舩後靖彦氏と木村英子氏が当選し、「れいわ旋風」とも呼ばれた。そのとき私は政治部にいて、参院の文教科学委員会で舩後氏の初質問を取材した。重度障害者が国会で質問するという歴史的な場面を目の当たりにして感動したことを覚えている。

 ただ、山本氏自身についていえば、比例代表の候補では最多の99万超の個人票を集めたものの、3議席目には届かずに落選した。現職の国会議員ではなくなったため、公の場での露出は減り、今年予定していた全国を巡回するイベントも新型コロナウイルスの影響で中止。活動に陰りが出ていたのは否めず、「れいわ旋風」は影を潜めているように見えた。

 今回の都知事選では山本氏は当初、不出馬を示唆していた。しかし、告示が3日後に迫った15日、土壇場で出馬を表明。既に立憲民主、共産、社民の3党は宇都宮健児氏(73)を支援する方針が決まっていて、山本氏は出馬会見で「小池(百合子)さんの票を削りにいく。選挙自体どうでもいいと思っている人たちに対して、リーチできるのも私」と強調したが、野党内や支持層から「野党票が割れて小池氏を利することになる」といった批判が出た。

「首相になる」じゃなかったのか?

 まさに「空気を読まない」出馬に踏み切った山本氏だが、そもそも、これまでは首相を目指していたはずだ。なのになぜ都知事なのか。そんなことが気になって、告示日の18日、第一声を行う新宿駅南口に向かった。到着すると、レゲエ音楽が流れ、「私じゃなく政治が頑張れ」と書かれたTシャツを着たスタッフが懸命にビラ配りをしている。演説台の後ろでは、「早く演説がしたい」とばかりに、水を飲んでスタンバイしている山本氏の姿が見えた。真っ白なポロシャツにスポーツタイプの腕時計を身に着け、浅黒くがっしりした体つきは、はつらつとした印象を与える。

 予定していた午前10時になると、演説が始まった。事前告知をしていなかったためか聴衆は50人に満たないほどで、ややさびしい。「次の国政を目指し、先々は総理になり、生活を底上げするということを言ってきましたが、なぜ都知事選なのか。その話をしたい」と切り出す。「子どもの7人に1人が貧困。女性1人暮らしは3人に1人が貧困。コロナの前から、ずっと貧しくなってて、何とか生き延びてきた。今、目の前で困っている人たちをすぐに底上げするためには、目の前の選挙に出て、権力を取り、実行に移すしかないと思った」と出馬の理由を説明。「目の前で苦しんでる人たちを放っておかない。災害や不況の度に、もう死にたいっていう状況の人たちなくしましょう。あなたの生活を確実に底上げさせてください」などと訴え、全都民に10万円を給付するなどの総額15兆円の経済対策を語った。

 なるほど、わかりやすくいえば、「首相を目指していたが、新型コロナウィルスの影響で困ってる人を救うため、目の前の都知事選に打って出る」という話だが、首相から都知事への急な方針転換の理由としては少々、節操のなさを感じないでもない。仮に都知事になっても、解散・総選挙になったら知事の職を放り出して衆院選に出馬しないか……などと邪推してしまう。

公約の「五輪中止」は?

 また、山本氏はこの日の演説の終盤で「感染者の多い国々から、日本の国内に入ってくることになったら、東京がコロナを培養するシャーレになる」と五輪・パラリンピックの中止を訴えた。目玉の選挙公約のひとつだが、陣営のホームページに載っている街頭演説の全文を確認したところ、19日以降の主要な演説ではなぜか「五輪・パラリンピックの中止」は訴えなくなってしまった。

 疑問に思い、もう一度街頭演説を聞きに行った。

 25日午後、世田谷区にある京王線・明大前駅前でマイクを握った山本氏。学生街ということも踏まえ、「学業を諦める方々がいて、学ぶ権利を大人が守る局面にある」と授業料の1年間を無料にすることを主張。都が進める都立病院の独立行政法人化については「医療従事者がコストカットされていく。コロナでさんざん疲弊しているのに、削ろうするなんて鬼だ。絶対に許しちゃいけない」と語気を強め、「この国の最高権力者はあなた。投票行動や力を合わせていくことで、世の中を変えられる。東京を変えましょう。そして国を変えていきましょう」と呼びかけると、大きな拍手が起きた。だが聞きたかっ…

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