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NHKは何を間違ったのか~米黒人差別の本質

「知らない」では済まされない 黒人差別のシンボルとタブー 矢口祐人・東大教授に聞く

人種差別への抗議を表すため、「BLM」のスローガンなどが投影された南軍司令官リー将軍の銅像=米バージニア州リッチモンドで6月18日、ロイター

 黒人を描いたアニメ動画と番組が「ゆがんだ固定観念を助長する」と批判されたNHK。そのような失敗を、二度と繰りかえさないためにはどうすればいいのだろう。インタビュー最終回は、アメリカ文化を専門とする矢口祐人・東大教授(54)に、奴隷制や人種差別と深く結びついたタブーやシンボル、「知らなかった」ではすまされない重要概念を説明してもらった。【統合デジタル取材センター/國枝すみれ】

 ――黒人差別解消を求める運動「BLACK LIVES MATTER(BLM、黒人の命は大事だ)」に対し、「ALL LIVES MATTER(ALM、すべての人の命は大事だ)」と反論する人がいます。火事現場に駆けつけた消防士に対し、燃えていない隣家が「俺の家も大切だ。水かけろ」と言っているようにも見えますが、こうした主張をどう考えればよいですか。

 ◆BLMは、「黒人の命や生活の重要性を、白人のそれと同じレベルで扱ってほしい。現在のゆがんだ社会の構造を変革しなければいけない」という訴えです。

 一方のALMは「すべての命を大切に」という意味ですから、一見すると正論に聞こえます。しかし実態は、保守派、右派がBLMに対抗する形で使っている表現です。「我々は差別主義者じゃない。みんなで対立しないで仲良くしよう」といいながら、BLMが問題視する制度的差別の存在や構造的変革の必要性を否定し、現状を維持しようとしている。BLMは、「構造を変えない限り、みんな仲良くなんてできない」と考えているのです。

 ――米国の若者世代には、自分たちは「カラーブラインド(肌の色の違いを認識しないこと、差別意識がないこと)だ」という人たちがいます。人種差別といってもピンとこない人もいるようです。

 ◆肌の色を「見ていない、見えない」ということが正しいと思っているかもしれないが、「見えてすらいない」ということです。米国で肌の色が問題とならなかったことは一度もない。カラーブラインドを掲げる人は「自分は肌の色で差別する人間でない」と主張したいのでしょうが、現実を見ていないだけです。

 米国は人種で分断され、分断はいまも続いている。学校や生活空間が人種ごとに違うからなかなか理解できないのです。さまざまな人種がいる大学に入っても、人種別に集まる傾向にあります。

 ――日本では数年前にも芸能人が顔を黒く塗って問題になりました。米国では絶対にしてはいけない行為の一つですね。

 ◆米国では奴隷制の時代から、白人が顔を黒く塗って黒人のふりをするミンストレル・ショーとよばれる娯楽がありました。顔を黒く塗った白人がステージで黒人のふりをして愚かな行為をする。白人の観客はそれを見てげらげら笑う。徹底的に黒人を愚弄(ぐろう)するパフォーマンスです。身体障害者をみせものにするフリークショーなどと並んで、北部を含めた全米でとても人気があったんです。

 だから今も、白人が顔を黒く塗ってふざけている写真が流出して大問題となります。カナダのジャスティン・トルドー首相や米バージニア州のノーサム知事まで、若いときの黒塗り写真が出てきた。「黒人を愚弄するつもりはなかった。仮装大会でうけ狙いでやった」「マイケル・ジャクソンになったつもりで、ムーンウオークしていただけ」。黒塗りした白人がいくら言い訳しても、だめです。これは奴隷制と不可分の、黒人をどう見るかという記号だからです。黒塗りの顔をみれば、多くの米国人はぎょっとするはずです。

 ――(ロープの先端を輪状に結んだ)首つり縄もシンボルですね。

 ◆リンチのシンボルです。黒人は縄で木からつり下げて殺された。首つり縄を置くという…

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國枝すみれ

1991年入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、西部本社福岡総局で警察担当記者、ロサンゼルス支局、メキシコ支局、ニューヨーク特派員を経て、2019年10月から統合デジタル取材センター。05年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

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