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あなたの都知事選

毎日新聞社とYahoo!ニュースによる共同企画。首都の顔を選ぶ選挙と、東京の課題を分かりやすく伝えます。

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テレワークできない人も コロナ時代の働き方とは

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選挙公報を読む個人タクシーの運転手。コロナの影響で乗客はすっかり減ったという=東京都豊島区のJR巣鴨駅前で2020年6月23日午後1時23分、金子淳撮影
選挙公報を読む個人タクシーの運転手。コロナの影響で乗客はすっかり減ったという=東京都豊島区のJR巣鴨駅前で2020年6月23日午後1時23分、金子淳撮影

 新型コロナウイルスの影響で、働き方の見直しが進んでいる。東京都知事選の候補者が訴える政策にも、テレワークの推進やネット環境の拡充といった項目が目立つ。だが、世の中にはテレワークや在宅勤務ができない仕事だってある。コロナの時代の働き方改革に求められる政策とは何なのだろう。【金子淳】

「テレワークなんて関係ない」

 JR巣鴨駅前。ロータリーで客を待つタクシーの車列はほとんど進まず、運転手たちが車外に出て休憩していた。

 「我々はお客を乗せなきゃ話にならない。テレワークなんて関係ないよ」。豊島区に住む男性運転手(72)は緊急事態宣言中は仕事がなくなり、手取りは休業補償の13万円に減った。解除後も人出は戻らず、客は「以前の半分くらい」という。選挙公報を見ていた別の運転手(68)はつぶやいた。「テレワークもいいけど、景気対策が一番大事だ。今のままじゃ食っていけない」

町工場も「新しい働き方」を模索

工場で部品をチェックする三進製作所の丁官一郎さん=東京都墨田区で2020年6月19日午後1時50分、金子淳撮影 拡大
工場で部品をチェックする三進製作所の丁官一郎さん=東京都墨田区で2020年6月19日午後1時50分、金子淳撮影

 東京都の調査によると、3月時点で24%だったテレワーク導入企業は4月に約63%と急増している。緊急事態宣言中は朝夕のラッシュもなくなり、首都の景色は一時的にがらりと変わった。

 だが、テレワークできない仕事も少なくない。医療福祉関係や交通機関、運送業、小売店など「現場」で社会を支える仕事ばかりだ。貴金属・金属部品を加工する三進製作所(墨田区)の丁官(ちょうかん)一郎社長(62)は「製造業は自宅で機械を使って作業するわけにはいかない。(IT企業などと)同じ土俵で話すのは難しい」と語る。

 それでも、「コロナ時代」の新しい働き方の重要性は高まっている。丁官さんもウェブサイトやSNSを使った営業や、テレビ会議による打ち合わせを考えているという。「例えば町工場同士が連携して作業を分担すれば、密になりやすい大工場で作らなくてもいい。テレワークだけでなく、もっと幅広い支援をしてほしい」

本社オフィスはもういらない?

テレワークを本格導入したClipLineの本社オフィスでパソコンに向かう高橋勇人さん。この日も社員はほとんどいなかった=東京都港区で2020年6月15日午後1時40分、金子淳撮影 拡大
テレワークを本格導入したClipLineの本社オフィスでパソコンに向かう高橋勇人さん。この日も社員はほとんどいなかった=東京都港区で2020年6月15日午後1時40分、金子淳撮影

 一方、コロナを機に本格的にテレワークへ移行した会社もある。

 外食産業などに動画研修サービスを提供する「ClipLine(クリップライン)」(港区)は、緊急事態宣言の解除後もテレワークを続けることにし、4月末には本社オフィスの賃貸契約の解除を決めた。従業員は約80人に上り、テレワークの方がメリットが大きいと気づいたからだ。高橋勇人社長(45)は「通勤や身支度の時間が節約できるし、人材募集の幅も広がる。感染や事故、災害などのリスクも減らせる」と語る。

 今後は小規模なオフィスに移るが、毎月約700万円かかった家賃などの維持費は相当圧縮できる見込みだ。高橋さんは「旅行や介護をしながら働いてもいい。働き方にもダイバーシティー(多様性)が求められている。行政や国会、教育などもこれを機に、全面的にデジタル化を推進してほしい」と訴える。

各候補、公約さまざま

 働き方を巡っては、各候補がさまざまな主張を展開している。

 現職の小池百合子氏が進めてきたのが「スムーズビズ」だ。環境相時代に浸透させた「クールビズ」を思わせる響きがあるが、実はこれ、小池都政が推進する時差出勤やテレワークといった「新しい働き方の東京モデル」。ただ、コロナ前はテレワークの導入率も低く、前回選の公約だった「満員電車ゼロ」もコロナの影響で一時的に達成したのみ。今回は「テレワーク・時差出勤の定着・制度化」を公約に掲げている。同様にテレワーク推進を訴えるのは、元熊本県副知事の小野泰輔氏だ。サテライト都市を整備して都心の過密を避けるほか、満員電車の解消に向けて時間別価格設定の導入も検討。水上交通も輸送や通勤に活用する。NHKから国民を守る党党首の立花孝志氏も選挙公報で「都職員の9割テレワーク化」や「満員電車は高くする」などと訴えている。

 一方、補償や労働環境の改善に重点を置く候補もいる。れいわ新選組代表の山本太郎氏は、タクシー運転手やスーパー店員などの「エッセンシャル(必須)ワーカー」への「危険手当」支給を掲げる。都民への一律10万円配布に加え、中小企業向けの補償や水光熱費支払い免除なども前面に打ち出した。元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏は、非正規労働者を減らし正規雇用への転換を進めるほか、ブラック企業の規制などを通じて労働環境の改善を目指す。「人間らしいワーク・ライフ・バランス」実現などに向け、新たな補助金制度も創設するという。

問われるのは首都のあり方

 都知事選で働き方が議論されているのは、何もコロナだけが理由ではない。都市化による人口過密や渋滞は世界中で起きており、働き方は首都のあり方にも直結する課題だからだ。例えばインドネシアは2019年、一極集中の緩和を理由に首都をジャカルタから移転させることに決めた。インド西部ナビ・ムンバイ(新ムンバイ)のように、大都市近郊に計画都市を建設したケースも少なくない。

 「コロナは働き方を見直すいいきっかけになった」。今回の取材では、何度もそんな声を耳にした。都知事選を機に改めてそれぞれの働き方を考えることは、東京の未来にもつながると言えるだろう。

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