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東京都知事選で「日本のサンダース」と呼ばれている候補がいると聞いた。弁護士の宇都宮健児氏(73)だ。米上院議員のバーニー・サンダース氏(78)は、前回の米大統領選の民主党予備選で一大旋風を起こした人物。今回の予備選にも出馬し、国民皆保険や公立大の授業料無料化などを訴えて若者の熱狂的な支持を得た。今回、宇都宮氏は3回目の立候補だ。サンダース氏のような「旋風」は起こっているのだろうか。【大迫麻記子/統合デジタル取材センター】
もの静かな聴衆
選挙戦初日の第一声。選んだ場所は、都庁の前だった。宇都宮氏は2012年、初めて都知事選に立候補し落選。以降、都政の諸課題を知ろうと、都議会の傍聴を続けている。ここを選んだのは「今度こそは」という強い思いの表れかもしれない。
曇天のもと、ネクタイを締めたスーツ姿でマイクを握った宇都宮氏。まず発したのは、やはり新型コロナウイルスについてだった。
「コロナ災害に伴う国や東京都の自粛要請。そして休業要請などによって、多くの都民が仕事を失い、住まいを失い、営業が困難となり生活や命が脅かされています。そしてしわ寄せはとりわけシングルマザー、非正規労働者、身体に障害をもつ方々、そういう社会的経済的に弱者といわれる方に及んでおります。今回の選挙は、私は都民ひとりひとりの生存権がかかった選挙だと考えています」
聴衆は数十人と多くはないが、時折うん、うんと大きくうなずいている。
宇都宮氏はさらに、病院と保健所の強化に加え、公社病院の独立行政法人化の中止を主張した。都は22年をメドに、現在14ある都立・公社病院を独立行政法人に移行する方針だ。宇都宮氏は独法化されると経営面での採算が重視され、コロナ対応の質が低下する、として反対姿勢を示した。
都内の50代の女性は「まっすぐな人だし、弁護士としての実績もあるので支持しています」と期待を込めた。聴衆のリアクションは決して悪くはないが、熱狂というよりは落ち着いた反応。宇都宮氏も、現職を名指しして声高に批判するようなことはほとんどない。「旋風」というよりは人肌に優しい癒やし系の「そよ風」といったところか。
多重債務者救済、派遣切り支援……人物像は
演説では聴衆におだやかに語りかけ、誠実な性格をにじませる宇都宮氏だが、著書「わるいやつら」(集英社新書)などをひもとくと、強い信念と行動力が垣間見られる。
愛媛県の小さな漁村で半農半漁を営む家庭の長男として生まれ、小学生の頃に大分県に移住。貧しさから抜け出して家族を楽にさせてあげたい、と猛勉強して東大に入学した。だが大学で、自分より貧しい被差別部落の女性の手記や炭鉱の子どもの作文集に触れ、衝撃を受けた。立身出世を目指す生き方に疑問を抱くようになり、弁護士として社会活動をすることを決意。在学中に司法試験に合格した。
弁護士になって対峙(たいじ)したのが、消費者金融やヤミ金の問題だ。多重債務者の救済活動に取り組み、暴力団まがいの取り立てをする業者と交渉した。根本解決には上限金利の引き下げが不可欠と考え、日弁連に「上限金利引下げ実現本部」を設置。数々の市民団体と協力して340万人の署名を集め、与野党議員の説得に奔走した。その努力が実を結び、06年には「グレーゾーン金利」を撤廃する貸金業法の改正が実現した。ちなみに、宮部みゆき氏の小説「火車」に消費者金融問題を追いかける弁護士が登場するが、そのモデルは宇都宮氏だ。
問題の背景には貧困があるとして、「反貧困ネットワーク」代表や「年越し派遣村」名誉村長を務め、派遣切りの解決に力を注ぐ。10年に日弁連会長に就任し、東日本大震災の被災者が無料で法律相談を受けられる「東日本大震災被災者援助特例法」の制定に尽力するなど、被災者支援に取り組んできた。社会的弱者の味方という姿勢は一貫しているようだ。
サンダース氏との類似点はどこ?
都庁前で第一声を上げた18日の午後。JR新橋駅前には宇都宮氏を支援する野党各党の国会議員の姿があった。そこで、社民党党首の福島瑞穂参院議員がこう持ち上げた。
「日本のバーニー・サンダース! 日本の希望! それが宇都宮健児さんです!…
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