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映画「劇場」が公開と同時に全世界配信 異例の決断について行定勲監督に聞く

映画「劇場」の一場面。主演は山崎賢人(左)と松岡茉優 Ⓒ2020「劇場」製作委員会

 新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、公開が延期されていた映画「劇場」(行定勲監督)が7月17日から、米配信大手の定額サービス「アマゾン・プライム・ビデオ」で全世界に配信される。また同日、全国約20館の小規模映画館(ミニシアター)を中心に劇場公開も始まる。日本の新作映画の場合、DVDの販売やネット配信などは劇場公開から半年程度、地上波テレビでの放送はさらに半年程度、空けられるのが慣例で、邦画の新作実写映画が劇場公開と同時に、定額の動画配信サービスでネット配信されるのは極めて異例だ。

 ただ、俳優の佐藤浩市や渡辺謙が出演した映画「Fukushima50」が一時、映画館で見るのとほぼ同額で有料配信されたり、女優の志田未来が声優の花江夏樹と共に主演し声優を務めたアニメ「泣きたい私は猫をかぶる」が、映画館での公開から米配信大手の定額サービス「ネットフリックス」の独占配信に変更したりするなど、コロナ禍が映画の公開形態に大きな影響を与えている。従来の「映画」のあり方に一石を投じることになりそうな映画「劇場」のネット配信について、行定監督に聞いた。【井上知大】

 ――映画「劇場」は4月17日公開で、全国のシネコンを中心とした大きな公開規模でした。当初の手応えは。

 ◆山崎賢人と松岡茉優という実績ある若手実力派の俳優が出てくれていて、作った自分としては、青春映画の王道のつもり。見る人が自分と重ね合わせながら見てほしいなと思っていた。公開規模は約280スクリーン。これは商業映画としての期待の表れだと感じていた。その分のプレッシャーもあったが、公開されたら観客にどう届き、どのような数字(興行収入)になってくれるか楽しみでもあった。

 ――政府の緊急事態宣言が4月7日に東京や大阪など7都府県、16日に全国へと拡大され、作品は公開延期となりました。そのときの心境は。

 ◆気持ちとしては、映画館が開いている限りは上映してほしいというのがあったが、ほとんどの映画館が休館となった。この「劇場」という作品は公開のタイミングが最もコロナの影響を受けた形になってしまった。もしあと1カ月遅い公開だったら、まだ宣伝費が保たれたまま公開を延期できた。しかし、商業映画としてある程度お金をかけて宣伝してきたことが、かえってあだとなってしまった。仮に延期した後、もう一度280スクリーンと同規模で公開することになったとしたら、これまでにかけた宣伝費にさらに上乗せしてやることになる。当時は新型コロナの患者数がどんどんと増えて、この先どんな上映形態になるのか、再公開がいつになるのかも分からず、路頭に迷ったような気持ちだった。私はこれまで、何の疑いもなく、映画を作ったら大きなスクリーンの映画館でお客さんに見てもらえ、その後、配信やDVDとして売り出されると思っていた。でも、そうした形でたくさんの人に見てもらうということが、とても恵まれた状況だったのだと気づかされた。当たり前が当たり前ではなくなった。

 ――そのような状況だった時に、アマゾンから製作費などが回収できる額でアマゾン・プライム・ビデオでの独占配信の打診があったとのこと。元々、映画館で上映されることを想定して作ってきた作品であるがゆえに複雑な葛藤があったのでは?

 ◆20年ほど映画監督をやってきているが、準備してきた作品が公開できなくなるという経験は初めて。私たちは、商業映画として製作費や宣伝費などを、その映画の力できちんとリクープ(回収)し、そして次(の作品)へつながなければならない。でも、(延期決定)当時はどうすればよいか全く分からなかった。そもそも「配信オンリー」という公開の形は、考え難いものだった。なぜなら(長年の経験や固定観念ゆえの)刷り込みがあるから。当たり前のように、映画を作ったら映画館で公開ができて、お客さんに見てもらえるという大前提でこの20年仕事をしてきた。私の場合、デビュー間もない初期の頃はミニシアターで上映してもらって頑張ってきたが、「GO」(2001年)以降はシネコン上映が増えていき、「世界の中心で愛をさけぶ」(04年)などからは完全にシネコン中心となっていった。(これらの作品はヒットし、各映画賞にも選ばれたこともあり)僕は恵まれた環境で全国の人に作った映画を見てもらえる状態が続いてきた。こういう(コロナ禍の)状況になって、映画とは何だろうと考えた。商業映画としての側面は、お金をかけて宣伝し、きちんとヒットすることが目標。文化的側面としては、僕は映画監督なので、スクリーンで観客に見てもらえる機会を奪われることは、非常に耐えがたい。なぜなら、観客が暗闇の中、スクリーンで上映されているという状況を最も考慮して映画を作っているから。とはいえ自問自答したのは、自分の作品がどんな形であれ、お客さんに届くことが最も大切。僕の映画を見てくれる人の中には、昔の作品が封切られた当時、まだ幼くて映画館で見ていない若い世代もいる。その人たちは配信なり、レンタルDVDなりで後から見ているわけで、それでも作品を好きになってくれた人にも大勢出会った。ということは、最終的に自分の作品の意図は、どんな形でもきちんと届いているということ。そこに葛藤がある。「映画」として誕生したはずの作品が、映画として認知されないで誰かの元へ届くということで良いのかという葛藤があった。

――結論としては、アマゾンで全世界配信をしながら、日本国内では当初よりぐんと小規模にした全国20館で上映するという落としどころに。この結論に至った経緯は?

 ◆この答えの出ないモヤモヤを解消するために、いわゆる自粛期間中にリモートで配信動画を2本作った。「配信」という形で私が作ったものを、お客さんはどう受け止めてくれるのかを知りたかった。2作合計で約32万人に視聴され、こうした「配信」作品もきちんと観客に届いていることが分かったし、視聴者の感想には「これを見て改めてまた映画館で映画を見たくなった」という意見もあった。この経験を経たことで、アマゾンに「配信と同時に映画館でかけてほしい」と要請し、規模は縮小されて全国20館となったが実現に至った。なので、映画館でも見てほしいし、今はまだ映画館へ足を運ぶには抵抗がある人には配信で楽しんでほしいと思っている。

 この映画「劇場」は、そのタイトルからして劇場(=映画館)で見られることを強く意識して作った。スクリーンから客席が地続きに感じられるように演出している。そしてエンドロールが終わり、観客が家路につく、その余韻まで想像して計算した。それくらい映画館のスクリーンで見られることを特に強く意識して作っている。こういう特に映画館を意識した性質の映画の時に限って、その作品がこのような運命をたどるのか……とは思ったが。

 「劇場」をアマゾンによる「配信」で流すことについて言うと、従来の考え方で公開日を決めて、宣伝費をさらに上乗せして劇場公開するとすれば、製作者たちのリスクはものすごく大きくなり、かなり覚悟をしないといけない状況になる。一映画監督としては、この作品をとにかく映画館で上映したい。一方で「配信」という選択も分からないわけではない……というか、もっともなことだと感じた。僕自身が配信に対して「NO」と言うべきかどうか。このコロナ禍において映画業界への打撃も考えたし、この先にも映画監督として、映画を作り続けようと思っているし、こういう状況だからこそ新作を作り続けなければと思っている。であれば、作品が商業的に資金面で傷ついてしまい、次につながらなくなってしまうのは本望ではない。

 そこでアマゾンさんから提案を受けたが、アマゾンの「劇場」という作品への評価をとても熱く感じた。「全世界配信」という僕自身これまで経験のないことをしてくれるということ。新作映画が日本で公開されると同時に、世界でも公開されていくという状況。十数カ国の字幕がついて、200カ国以上に配信されることを想定している。こんなこと今まで考えもしなかった。そして、一緒に映画を作ってきたスタッフにとっても映画館でかけたい思いは同じだが、コロナ禍でなかなか劇場に足が向かない観客もいる中、彼らに広く伝わるのはどういうことだろうかと考えた時に、…

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井上知大

2013年入社。静岡支局を経て18年から学芸部。テレビ、ラジオなど放送分野に続き、19年からは映画を担当している。

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