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陸上イージスずさんデータ特報 秋田魁新報が見た「官の劣化、政府の危うさ」

陸上イージスの計画断念を伝える新聞を手にする秋田魁新報統合編集本部長の泉一志さん=秋田市の同社で2020年6月26日午後3時16分、古川修司撮影

 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」(陸上イージス)の計画撤回が決まった。政府はミサイルのブースター落下制御が困難なことを理由に挙げたが、流れを大きく変えたのは、予定地の一つ、秋田県の「秋田魁(さきがけ)新報」が防衛省の調査報告書の誤りを指摘したスクープだった。住宅街に隣接する陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)が予定地となってから取材を重ね、一連の報道が2019年度の新聞協会賞にも選ばれた同社。計画撤回をどう受け止めたか、統合編集本部長の泉一志さん(54)に聞いた。【聞き手・古川修司】

 <秋田魁のスクープは、19年6月5日の1面に掲載された。防衛省が公表した調査報告書は、新屋以外の東北の検討地19カ所を不適地とする内容だったが、独自の取材から「山がレーダーの障害になる」とされた9カ所はすべて山頂までの仰角が実際より過大だったことを明らかにした。県内の市町村議会が相次いで配備反対の請願や陳情を採択するなど大きな反響を呼んだ>

 ――陸上イージス配備断念が正式に決まりました。

 ◆この急展開は驚きです。防衛省による各検討地の再調査が進んでおり、私たちは県内の別の場所が候補に挙がることを想定して取材を進めていました。

 6月15日午後5時半ごろ、翌日朝刊に向けた紙面編成会議が終わった直後にNHKテレビのニュース速報で「イージス・アショアの配備プロセスを停止」と出て、目を疑いました。編集フロア内で「プロセス停止って何だ」「一時中断ということ?」といった声が飛び交いました。ほどなく共同通信社の速報や東京支社からの連絡が入り、「号外、号外をやろう」と騒然となりました。

 計画断念は25日午前8時20分ごろ、自民党の部会の会合に張り付いていた東京支社の小松嘉和編集部長からの電話が一報でした。「プロセス停止」といっても、方針が決定するのは年末ごろと考えていたので「えっ、突然だな」というのが第一印象。前日の国家安全保障会議の後にすっきりした政府の発表がなくもやもやしていましたが、「ようやく終わったか」と感じました。

 「国土を守るために必要だ」と閣議決定して進めてきたものが、部品のコストに見合わないという理由で断念に至ったとすれば、安全保障の重要な決定過程での計画の甘さ、官の劣化、政府の危うさを感じています。

 ――秋田が候補地に挙げられた当時、どう受け止めましたか。

 ◆うちの最初の報道は17年11月、共同通信が配信した「秋田、山口が候補に」という記事。「これは大変なことになった」と漠然と思う一方で、ぴんとこない自分がいました。日本初の施設だし、ミサイルをミサイルで撃ち落とすのは映画的、漫画的で現実の話ではないような感覚に陥ったことを覚えています。防衛、国家安全保障は秋田の取材ではほぼ無縁。取材経験が乏しい地方紙にはハードルが高すぎるな、と。手の届かないところで決められ、進んでいく不安があり、地方の新聞に何ができるのかと危機感を抱きました。

 ――どんな姿勢で取材に臨むことにしたのでしょう。

 ◆すぐにミサイル防衛の書籍を取り寄せ、インターネットで防衛用語を調べまくりました。私たちの強みは、現場がここにあること。一方で配備計画を決める国会は、委員会から本会議まで、ミサイル、陸上イージスに関する質疑はすべて詳報を書いて、「イージス問題では日本一詳しい地方新聞になる」という方針を立て、取材意欲を駆り立てました。東京支社の記者は2人なので大変だったと思います。秋田は全国で最も高齢化率が高く、難しい専門用語を高齢者にしっかりわかるように書かないといけないということも頭にありました。

 誰一人として専門記者がいないというのは、「これはつまりですね」と訳知り顔になれる人がいないということ。知らないことばかりなので真摯(しんし)に謙虚に取材し、「本当に必要か」「本当に秋田に造るのか」「これからどうなるのか」と、一人一人が関心を持って問題に向き合えたのではないかと思います。秋田の将来を大きく左右することだから、みんな本当によく勉強をしました。

 ――当初から会社として「秋田に立地すべきではない」というスタンスで臨んだのでしょうか。

 ◆何となく「変ではないか」という意識はありましたが、まずは賛成、反対ではなく、住民やその代表である県議と秋田市議、県選出の国会議員がどう考えているのかを聞き、いろいろな意見を載せようと考えました。経済効果を期待する人がいたのは事実だし、平常の生活が送れなくなるという人もいました。世間の雰囲気や世論の動きを把握したい思いもありました。そこからおのずと新聞社としての方向性が見いだせるのではと、走り出しました。

 政府は17年12月に陸上イージス導入を閣議決定し、翌月には小野寺五典防衛相(当時)が米ハワイの陸上イージス実験施設を見に行きました。私たちは防衛記者会に入っておらず、同行した共同通信の記者から現地の事情を聴くのが精いっぱい。このままだとすぐにでも決まってしまうのではと、調査報道を本格的に始めました。

 ――さまざまな現場に記者が足を運んだのですね。

 ◆見て、聞いて、書くのは取材の基本。急きょ防衛担当に任命した石塚健悟記者がまず山口県の予定地に行き、山林の中にあって新屋とは環境が全然違うとわかりました。そこでうちの社としての論点が、だんだん絞られていったと思います。

 国会審議や防衛に詳しい国会議員への取材なども基に記事を書いていたのですが、答弁する人も反対する人も賛成する人も、実は陸上イージスがどんな施設か見たことがない状況だと気づきました。そこで世界で唯一、稼働中の陸上イージスがあるルーマニアに行く検討を始めました。

 何の手がかりもなく、留学経験者に聞いたり現地の秋田出身者を探したりとまったくの手探りでした。記者の一人がフェイスブックで施設のアカウントを見つけ、運営者に「取材したい」というメッセージを送ってしばらくすると、伊ナポリの米軍広報担当者が対応するとの返事が来ました。石塚記者がやりとりを重ねて現地取材の承諾を得られ、現地の司令官の話も聞くことができたのです。

 行ってみてはっきりしたのは、秋田や山口と違い広大な原野にぽつんとイージス施設があるという現実。その重々しさと厳重な警備の状況、ミサイルの誘爆・誤爆が想定されブースター落下の可能性があること、一方で雇用とインフラ整備の恩恵がある点も記事にしました。

 記者が感じたのは、こんな施設が新屋の街の…

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