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ヘイトスピーチ

特定の民族や人種など人の尊厳を傷つけるヘイトスピーチは、どんな形であっても許されません。なくすためにはどうする?

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「差別のない街の見本に」川崎ヘイト禁止条例 7月1日全面施行 在日コリアンの思い

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「一番怖いのは目に見えない差別」と語る在日コリアン3世の孔連順さん=2020年6月27日、洪玟香撮影
「一番怖いのは目に見えない差別」と語る在日コリアン3世の孔連順さん=2020年6月27日、洪玟香撮影

 外国出身者やその子孫に対するヘイトスピーチのデモに全国で初めて刑事罰を科す川崎市の人権条例が7月1日、全面施行される。これまで「日本から出て行け」などと攻撃を受けてきた在日コリアンは、施行の日をどのような思いで迎えるのか。同市で暮らしたことのある当事者を記者が訪ね、期待や課題を聞いた。【洪玟香】

初の刑事罰を規定

 施行されるのは「差別のない人権尊重のまちづくり条例」。道路や公園など公共の場で①居住地域から退去させることを扇動・告知②生命や名誉、財産などに危害を加えることを扇動・告知③人以外のものに例えるなど著しく侮辱――する言動が罰則の対象となる。市長の勧告、命令に従わない場合は捜査機関に告発でき、有罪と判断されると最高50万円の罰金が科される。

 「街中にとどろいていたヘイトデモが減り、目に見える差別が少しずつ減れば、子どもは安心して学校に通えるようになるのではないか」。在日コリアン3世の会社員、孔連順(コンリョンスン)さん(59)に条例の意義を尋ねると、真っ先に「子ども」への影響を口にした。自らの学生時代の体験を振り返り、同じ思いをさせたくないと強く願うからだ。

 日本の小学校に通っていた小学4年の春、親に突然「おまえは在日コリアンなんだよ」と告げられた。直後に東京都内の朝鮮学校に編入することになり、クラスメートに別れのあいさつをする際に在日コリアンであることを明かした。

 翌日、いつもの遊び場に行くと、前日まで一緒に遊んでいた友人が逃げるように自分から離れていった。「朝鮮人」「中国人」。耳を疑うような言葉を投げつけられた。それ以降、2歳年下の弟と家の中で遊ぶようになった。

「人として対等であると証明」

 朝鮮学校に通い始めて1カ月が過ぎた頃のことだ。初めて買った定期券を持ちバスに乗り込もうとすると、運転手がいきなり目の前で定期券をビリビリに破った。それが何を意味するのか、10歳では分からなかった。悪意だけは確かに伝わり、恐ろしかった。親が持たせてくれた小銭を握りしめ、次のバスを待った。

 小6から結婚するまでの15年間、川崎市高津区で暮らした。友人がいるコリアンタウンでヘイトデモがあり、何度か足を運んだ。街のあちこちで「朝鮮学校を守ろう」と書かれたのぼりが立っていた。地域が「差別はいけないんだ」と闘う姿勢を示したが、ヘイトデモはなくならなかった。

 孔さんは、条例が外国籍である自分たちを「市民」と明記したことに希望を感じている。「どんな国籍や背景を持っていようと、人として対等であるということを証明してくれた。日本人がヘイトスピーチの背景にある差別を自分たちの課題として意識する土台になるのでは」と考える。

希望は捨てない

 課題は、インターネット上の書き込みといった「目に見えない差別」への対応だと思っている。条例では「拡散防止措置を取る」と明記しているが、罰則の対象外となったため、どこまで効果があるかは未知数だ。目に見えない差別が横行すれば、差別的言動の舞台が入れ替わるだけに過ぎない。

 小4の時に友人たちが離れていった話には後日談がある。数カ月後、その出来事を知った日本の学校の担任にたしなめられた子どもたちが、孔さんの自宅に謝りに来たのだ。「いじめによって自分が在日コリアンであることを自覚したし、そんな自分を救ってくれたのもまた日本人だった」。不安は尽…

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