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「何でも書けるし、何でも書いてみようと」 津村記久子さん新刊「サキの忘れ物」語る

インタビューに答える作家の津村記久子さん=大阪市北区で2020年6月17日、平川義之撮影

 偶然手にした1冊の本、河川敷に現れたガゼル、隣のビルの窓――。日々の生活や仕事に押し潰されそうな時、別の世界に目を向けると心がすっと軽くなる。津村記久子さんの作品には、そんな瞬間が鮮やかに描かれている。新刊「サキの忘れ物」(6月29日発売)には、日常の一コマをすくい上げた短編から、社会風刺が込められた作品、読者の選択で展開が変わる「ゲームブック」形式の物語まで、多彩な9編が収録されている。作品に込めた思いを津村さんに聞いた。【関雄輔】

 <表題作は18歳の少女、千春が主人公。高校を中退し、心を許せる家族も友人もいない。そんな彼女が、アルバイト先の喫茶店で客が忘れていったサキの短編集を手にすることから物語が始まる>

 全く本を読んだことのない子に、何を読んだらいいのか聞かれたら、「ちょっと難しいかも」と言って薦めるのが、たぶんサキの小説。牛専門の画家とか、変な話が多いのに、地に足が着いていて、もったいぶったところが全くない。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やテレビで耳にするような、もっともらしい物語の外にサキの小説はある。読みながら自分の中にないものに触れる感覚は、まさに文学だと思います。

 <自分のやることに意味なんてない。誰にもまともに取り合ってもらえない。そう感じていた千春は、本との出会いをきっかけに自分の人生を見つめ直す>

 親、友人、恋人といった環境に恵まれるかは運でしかないのに、持っていないと恥のように言われてしまう。“人的資源”を何も持たない子がどうやって人生を開いていくか。どのようにでも生きていけるという可能性を提示できるのが本だと思うんです。

 <「河川敷のガゼル」では、大学に行きたくない「私」と、不登校らしき少年が、場違いなガゼルを見守る。「隣のビル」では、理不尽な上司に苦しめられている会社員の「私」が、窓から隣のビルに飛び移る>

 苦しい環境にいても、外には別の世界がある。「ここじゃない場所」「こうではない生き方」があると知ることで人は楽になれる。「隣のビル」は自分自身の体験に近い話で、会社で働いていた頃、隣のビルをよくのぞいては、飛び移りたいと考えていました。実際には行動に移しませんでしたが。

 <飛び移った先は、何の変哲もない雑居ビル。それでも「私」は「窓が開いたような気分」になり、転職を決意する>

 そこに何か面白いものがある必要はない。…

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関雄輔

2007年入社。福島支局、南相馬通信部を経て、12年1月から大阪本社学芸部。現在は舞台芸術と文芸を担当。学生時代はバックパッカーとして40カ国を旅した。

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