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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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ある祝宴で歌われた言葉だ…

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 ある祝宴で歌われた言葉だ。「わしは人びとに恥をかかせる偉大な首長だ/われらが首長は人びとの顔に恥をもたらす/われらが首長は人びとの顔に嫉妬(しっと)をもたらす/くりかえし油の祝宴を行うことによって」▲宴とは北米西海岸の先住民のポトラッチ――客に富をばらまいて部族長らの偉大さを示す祝宴である。あるじは貴重な魚油を盛大に燃やし、客に毛皮や毛布、銅貨やカヌーなどを贈った。気前のよさで客を圧倒するのが宴の目的だった▲「人びとに恥をかかせる」とは、客が返礼できないのを恥じるほど気前がいいという意味である(ベネディクト著「文化の型」)。人に恥をかかせて偉大とは驚くが、ばらまかれたお金を受け取って恥をさらした人びとは最近もいる▲河井克行(かわい・かつゆき)容疑者と妻の案里(あんり)容疑者から現金を受け取ったとされる広島県の地方議員や首長の告白・辞任ドミノである。先日は頭を丸刈りにして続投姿勢を示していた安芸高田市長も一転辞意を表明し、3人の首長全員が辞任となった▲地元では名の挙がった県議や市議らの去就に注目が集まるのも成り行きだ。買収の疑いのある金を受け取った恥に加えて、辞任すべきかどうか周りを見ながら逡(しゅん)巡(じゅん)する姿も見苦しい。恥をかかせるポトラッチを受け取ったツケである▲当のポトラッチの主は買収容疑を否定して議員辞職の気配もない。思えばこの主も、さらにその上の主の大盤振る舞いで巨額選挙資金を手にしていた。恐るべきは恥をわが事と思わない「偉大な首長」だ。

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